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だからほとんどの人類は滅びてしまった。仲良く横並びになって繋いだ手錠、自分を破滅へと引きずり込んだ足錠、それが愛だったのではないだろうか。独りで生き残るよりも、家族愛とか友愛とか性愛とか無償の愛とかで誰かと繋がったままの最期を選ぶ。そんなドラマチックな終わりに囚われた結果は、草木一本、愛の糸一本も残らぬ世界。世界規模で蔓延したウイルスは、強固な意志で保たれた鎖ごと焼くしか術がなかった。
「馬鹿げていると思うかい」
私が黙って考え込んでいたので、納得しかねる意思表示と思われたのかもしれない。
「そうは思いませんがよく分かりません」
博士は目を細めて微笑んだ。まだフォークを上手く扱えない我が子を慈しむような、柔らかな眼差しで。
「さあ、仕上げだ」
博士から差し出された油性フェルトペンを受け取り、不完全なメッセージが印字された紙片を一枚手元にとる。
Send our to you.
このメッセージカードを完成させるのが私の仕事だ。アクリル製の筒に入れて素体の首に巻き、遠くへ運んでもらう。
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