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全てを印字せず手書き部分を残しているのは博士のこだわりによるもので、「これも一つの愛の形なんだ」と言っていた。
私はフェルトペンのフタを開けて、空白を埋めた。
フライトには申し分無い天気だった。遠くの空を見ても雲一つ見当たらない。
日が傾き、灰色の大地が赤々と塗り替えられていく。
博士が素体から充電ケーブルを引き抜いて始動ボタンを押すと、内蔵バッテリーから電力を供給されたプロペラが音を立てて回り始めた。飾り気のないロボットはふわりと浮いて、ゆっくりと上昇する。プログラムに従って決められた高度まで達すると、北に進路をとって遠ざかっていく。
まだどこかで生き延びているかもしれない人のために、私と博士はいくつものコミュニケーションロボットを飛ばしてきた。独り取り残された誰かが、このロボットと出会って繋がりを作るかもしれない。
「私達の繋がりに愛が必要無いのだとすれば、」
そう言う博士は、誰かと繋がっていなかったのだろうか。記憶をたどっても尋ねた覚えがなかったと気付く。
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