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4月も数日が過ぎた或る日。
朝の捜査会議が終わると、九龍理事官は木葉刑事を前に呼ぶ。 他の刑事達は、ぞろぞろと外に出て行く最中。
「木葉さん」
「はい」
「どの捜査に回りたい?」
「あ、はぁ?」
「ちっさい事はどうでもイイの。 どれ」
呆れた対応だが、木葉刑事は一つ頷くと。
「踏田さんの失踪を追う事が、解明の鍵に成ると思います」
九龍理事官に言う。
「解ったわ。 今日は里谷さんと、荘司・岡崎・松原刑事の方に加わって」
「はい」
里谷刑事と髪の長い若者の荘司刑事。 それから、細目となる岡崎刑事に松原刑事や他の2名は、依然として行方不明となる、主婦の踏田禊の行方を追っていた。
だが、役割が決まった木葉刑事は、直ぐに里谷刑事達を追わなかった。 何故か、鑑識課に向かい。
「あ~、おはよ」
今回の事件発覚と成った初日に、事件の現場と成った御寺に尿の採取をお願いした時。 鴫鑑識員と一緒に来て、鑑識作業を蹴ったあの若い所轄の鑑識員に声を掛けた。
「あっ、お・おはよう御座いますっ」
次々と証拠を見付けて来た木葉刑事に、彼女も恐縮して声が上擦る。
「進藤さんとか、誰も居ないのね」
「あ、鴫鑑識員は警視庁に…」
「いや、世間話じゃないよ。 実は、証拠として持ち込まれた写真のデータをもう一度、観たいんだ。 踏田さんの捜査で、飯田さんか、織田さんが持って来た写真データだと思うんだけど」
「え? あ、セミナーの写真は、捜査本部にも…」
「いや、向こうに挙がってる写真じゃないヤツなんだけどね」
「あ~~~、じゃ此方で」
其処へ、所轄の鑑識課の課長になる中年男性も来た。 見た目は穏やかそうな、少し老けた感じのする痩せた人物。
「木葉刑事、何か?」
「以前に持ち込まれた写真で、ちょっと引っ掛かっているものが有りましてね」
「ほう」
若手の刑事が来たならば、見捨てても構わないが。 証拠を次々と発見し、朝倉史絵子の遺体まで見付けた彼だ。 鑑識課の課長も、緊張感を持って付き合う。
30インチサイズのモニターに、鑑識員の彼女が写真データを出してくれた。
先ず、セミナーの様子を写した画像データだ。 講師として話すスーツの男性。 専門化なる眼鏡の若者。 後は、セミナーを企画した主催者やスタッフが写る写真データが、スライドショーの様に流れるが。
「先ず、今の」
踏田さんが失踪した当事、新しく建てられたと云うコミュニティーセンターの大ホールにて。 パイプ椅子に座る女性の見切れた顔を指差す。
「この女性の顔が丸々写った画像が在りましたら、後で顔認証に掛けて下さい。 何となく、今回の被害者の女性に似ているんですよ」
「えっ?」
「なん、はぁ?」
女性鑑識員と課長は驚くも、木葉刑事の眼は誤魔化せ無い。 怨みや怒りを持たれた被害者には、一般の者とは次元の違う様子が窺える。
だが、この作業は急ぐに無い。
「先に、次の映像をお願いします」
こう依頼した木葉刑事。
また、画像や映像を若い鑑識員が流し始めれば。
「あ、そこ」
次に止めた画像は、集まる高齢者に空いている席を薦める様な素振りの、トレーナー姿をした30前後の男性が写る一枚。
「これ・・ですか?」
頷く木葉刑事は、トレーナー姿の男性の首もとに指を向け。
「この辺り、拡大してくれます?」
言われるがまま彼女は拡大し、鮮明化する。
「あら、タトゥー?」
木葉刑事も、タトゥーらしき一部を見て。
「コイツは以前に、迅に渡したクレカ詐欺の一人じゃないかな。 名前は、確か・・畠中とか云う…」
鑑識課の課長は驚いて。
「両方の画像を警視庁の鑑識に送って、しょ、照会して貰えっ」
「あ、はっ、はいっ!」
彼女が、前の顔認証も含め、警視庁の科捜研にデータ解析を依頼する。
その作業の最中に、鑑識課の課長が。
「木葉さん、それならもっと早く言って貰えると…」
「スイマセン。 飯田さんからコレを見せられたのは、白骨遺体を発見したあの夜の事で。 あの時は忙しくて、気に成らなかったんですが。 先日にもう一度、改めて観た時。 何だか知ってそうな気がして来ましてね」
「あ、あぁ…。 貴方も次々と大変でしたからね」
2人が更に話していると、確認の依頼を終えた若い鑑識員の彼女が。
「続きを始めますね」
また写真をスライドさせる。
そして、また。
「あ、これは?」
木葉刑事が止めたのは、建物の前。 駐車場での写真だ。 時刻は、夕方ぐらいか、空が赤くなり始めている。 詐欺メンバーらしい全員が、車の前に集まり写っていた。
「詐欺セミナーの解散前だそうです。 一応、車種やナンバーは手配の中に入れて貰いました」
鑑識員の彼女が言う。
然し、木葉刑事の目には、駐車場に停まる古めのワゴン車の前に、見覚えの在る女性の霊が立つ姿が視える。
(セミナーが終わる前に、踏田さんは殺害された? それに、この…)
強烈な違和感は、以前からデータの写真を見せられた時から感じていたが。 それを現実に、口にする機会を今に得たと感じた。
「この写真の中に居る、詐欺セミナーの関係者と思われる人物は、総て解ってるのかな」
「あ~、この写真に在る人物は、この写真を写した年配者の職員を除いて、詐欺セミナーの一団とは解ってます。 ですが、誰もが偽名でして。 会社をネット検索しても、もう解りません。 ですが、講師の人物、専門家を称する若者は、本名が割れました」
だが、木葉刑事が最初っから引っ掛かるのは、詐欺セミナーを開いた主要な四人の男性全員。 彼等の首には、幾重に無数の死者の手が掛かる。 霊視として見れば、もう首から上の顔が解らない位に、沢山の手が伸びていた。
(凄まじいまでの、強烈、熾烈な怨みだ。 この引きずり込まれそうな気配、独特な怨念の融合は、嗚呼…。 あの時の悪霊の………)
こう思った時に、木葉刑事の脳裏に或る可能性が閃く。
「あ、あ~~~のですね」
と、鑑識課の課長さんを見た木葉刑事。
「はい」
「この詐欺師達って、もう自分達の遣って来た詐欺、みんなバレてるんですよね?」
「はい、そうですね。 この詐欺セミナーとは別に、4年ほど前にも違う手口の詐欺で、別の警察署に被害届が出されてますよ」
「ん゙ん…、まさか・・なぁ」
困る木葉刑事。
課長は、此処まで証拠を挙げた木葉刑事だから、ヒントに成るならば何でも知りたく。
「木葉刑事。 ヒントに成りそうな事は、何でも言って下さい」
「あ~~~、じゃ…。 ちょっと九龍理事官の処に行きましょう」
「はい?」
「いや、我々に対処が出来る領域の外、になる話なんで…」
木葉刑事の話に、課長の男性も何か大変な事情が在ると察した。
「・・解りました」
課長の男性が納得した其処に、電話が入る。 女性鑑識員が電話を取れば、相手は警視庁より。
「警視庁の庶務課です。 先程、そちらから照会を頼まれた写真の人物ですが。 問い合わせの相手、〔畠中 和生〕《はたなか かずき》と思われます。 顔認証で、89%。 タトゥーの柄の断片も、酷似しているそうです」
「解りましたっ、有り難う御座います! 資料としてのデータを送って下さいっ」
彼女は電話を切ると、座りながら振り返り。
「先程のあの人物、木葉刑事の云う通りに畠中で在るそうですっ」
頷いた課長は、
「情報を資料にし、九龍理事官へ提出してくれ」
と、頼むと。
「では、行きましょうか」
木葉刑事を促した。
さて、大して時を要さずに、また会議室に帰って来た木葉刑事。 鑑識課の課長を伴って来たから、九龍理事官も、篠田班長も身構えた。
「なに?」
九龍理事官が問うと。
「理事官、ちょっと面倒な話をイイですか?」
「貴方からの面倒・・ね」
「はい…」
木葉刑事は、或る可能性について話をし始めた。
「まさか、あの事件の被害者…」
聴いた九龍理事官も、とんでもない話だと頭を抱えた。 だが、それを否定する根拠は無い。
「詐欺師だものね。 確かに、可能性は在るわね」
頭を下げた木葉刑事で。
「照会は、おいそれと出来ないでしょうから。 九龍理事官の気持ちでお願いします」
「う~ん」
話を横で聴く鑑識課の課長も、九龍理事官の脇に居た篠田班長も、悩ましい顔をした。
木葉刑事は、相手が詐欺師で怨みを受けていた場合。
“あの連続首なし・バラバラ事件で死んでいるのではないか?”
こう思ったらしい。 ………いや、実際は死んでいる。 あのセミナー主催側のどれだけが詐欺に荷担していたか、それは解らないが。 少なくとも、講師、専門家、主催者などは怨みを強く買いそうで在る。
意見を出した木葉刑事は、里谷刑事らと合流する為に警察署を出て行く。
九龍理事官は悩んだが、昼頃には刑事部長へ相談を上げる。
そして、午後12時36分。
警察庁のトップ、太原長官へ一通のメールが送られた。
議員との会議で外に出ていた太原長官は、車の中でメールを見る。
- 不躾にメールを致しまして、誠に申し訳ありません。
実は、G対象事件、特別案件のNo.6につきまして。 あの事件の中で亡くなった詐欺師の中に、添えました写真の人物達が居るか。 照会をお願いしたいのです。
この一件は、木葉より頼まれた、と申しておきます。
失礼を。 〔刑事部長〕 -
木葉刑事からの頼みと知って、太原長官はスマホを操作した。
- 鵲、或る事件について、人物照会を頼む。 写真を送った。 解った結果は、警視庁の刑事部長へ送ってくれ。 -
メールをした太原長官は、空腹を覚え。
「あぁ、倉持君。 警察庁までまだ掛かる。 あの、回転寿司に入ってくれ」
自分付きの運転手に言った。
……。
その頃、木葉刑事は仲間と音声認識のショートメールでやり取りをする。
- 木葉、この畠中って奴を探すんだな?(飯田) -
- だってよ。 いきなり捜索って、モチベーションが湧かない(里谷) -
最重要関係者として、畠中と云う人物が刑事達に伝わった。 目標が出来ると刑事達も動き易い。 手柄が目の前に現れた様だ。
然し、木葉刑事は踏田禊さんの足取りを再度、一から確かめる。 八王子市の彼女の家からコミュニティーセンターまでを歩き。 また、コミュニティーセンター内を見て。 それから、既に話を聴いた人を訪ねて証言を聴く。 一緒に来た里谷刑事は、何で繰り返すのか解らない。
夕方の4時半を回り。 証言の大半を聴き回った頃か。
「ねぇ、木葉さん」
道路を歩く里谷刑事が痺れて聴けば。
「もう、大半が死んでます」
唐突に、歩きながら木葉刑事は言った。
自転車で道路を走る学生や主婦などが目立ち始め。 道路を行く車が増え始めた。
里谷刑事は一瞬だけ呼吸が止まり掛けて、慌てて木葉刑事の肩を掴む。
「ちょっと、どうゆう事?」
足を止めた木葉刑事は、すぐ先のスーパーを見る。
「彼処で一休みして、話しましょう」
歩いてスーパーの駐車場に入り、木葉刑事は入り口の常温の紅茶のペットボトルを2本買う。 店の外に待つ里谷刑事は、今しがたの話に心がザワザワした。
そして、スーパーの側面。 自販機やインスタント証明写真を撮る機械の先に、腰を下ろせるベンチが在り。 畳一枚ぐらいの芝生と、円い石の椅子が在る。
「落ち着いて下さい」
椅子に腰を下ろした木葉刑事は、ペットボトルを里谷刑事に渡す。
「さっきの話って?」
受け取り蓋を回しながら言う里谷刑事は、その後に無糖紅茶をグイッと飲んだ。
椅子に腰掛けた木葉刑事は、蓋を回しながら。
「実は。 あのセミナーを行った詐欺師の写真。 どれもこれも3人ほどを除いて、呪われた様に・・首へ無数の手が回っています」
言いながら里谷刑事を見上げる。
「ど、どうゆう事?」
「里谷さん。 あの詐欺師の大半は、あの例の…。 恐らく自分が記憶を失った間に何か在った…」
こう聞いた里谷刑事の目が見開く。
「まっ、ま・まさ・か…」
木葉刑事と里谷刑事の目がかち合う。
木葉刑事の視線は、非情に冷静だ。
「里谷さん。 俺が記憶を喪った間に、何か強烈な霊が暴れてましたね? 貴女は、それを知ってる」
問われた里谷刑事だが、魂を掴まれたかの如く脚が竦む。 あの事件の時の記憶が甦り、ペットボトルを掴む手が震えた。
周りの客の中で、家族連れの賑やかな声も、動く自動車の音も、二人の刑事を包んでいる。 だが、それが色褪せているかの様なのは、二人の刑事の気持ちが周囲の日常と馴染まないからだろう。
(いよいよ、記憶が甦り始めてるの? 詐欺師・・そうだっ! あの事件は、恨まれた者と恨んだ者が、怨みの力で相殺された………)
里谷刑事の心が細かく乱れるのに。
至って冷静なる木葉刑事は、里谷刑事を見上げるまま。
「詐欺師の大半は、俺が忘れた何かに殺害された。 この数日、写真を見ては頭の中で何かが疼いてます。 この関連性を推理するに、そう思えます。 九龍理事官に、詐欺師の照会をお願いしました。 遣って頂けたならば今日か、明日にでも判明するでしょう。 そして…」
此処で紅茶を一口した木葉刑事は、走り出す車を見送りながら。
「踏田さんは、既に亡くなっている。 殺害され、遺体は相模湖に棄てられてます」
「解るの?」
頷く木葉刑事。
「無念を訴える彼女の霊を視れるのに、彼女の遺体を捜しに行けない」
「やっぱり、あの詐欺師達に殺害された?」
「はい。 セミナーの後片付けの最中、彼女はあの詐欺師達に会った。 祖母の契約を破棄し、怪しいセミナーで情報やアプリデータを売り付ける彼等を警察に突き出すと。 ハッキリと宣言して、電話を掛けようとした。 だが、間が悪かった」
「市の職員が先に帰った事?」
「えぇ。 住民相談窓口の職員の一人が、体調を悪くして午前で早退した。 コミュニティーセンターの様子を見ていた職員は、午後2時前に市役所へ帰った。 コミュニティーセンターには、専属で常駐管理事務の年配者が残りましたが。 その日は、裏の駐車場の壁が補修中で。 園芸が趣味の事務職員は、詐欺師の彼等が片付けを終えるまで、補修作業を見物に行った」
「あのコミュニティーセンターは、新しいから防音もしっかりしてたって…」
「殺害された時、声は外に漏れなかった。 機材を運ぶフリで彼女の遺体は車に運ばれた。 片付けが終わり、帰る前の彼等を写真に収める事務の職員は、コミュニティーセンター内の壁に活動を報せる為でしたが。 機材を運ぶ車の前には、殺害された踏田さんが居る」
話を聴く里谷刑事は、木葉刑事が何で同じことをなぞる様な半日を過ごしたか解った。
(嗚呼、幽霊から事件が解るから…。 答えが解っても、その答えまで道を繋げないといけない。 その苦労や悩みは、普通の刑事とは…)
木葉刑事の行動の意味をまた改めて知る里谷刑事で。
「あの畠中は、見てるの?」
「写真からして、生存しているらしいのは畠中を含めて3人。 アシスタントの女性2人と、畠中です」
「合法的に踏田さんの遺体を捜すには、その誰かの証言が必要って訳ね」
「はい」
頷く木葉刑事と里谷刑事に、一斉メールで本部から通知が来た。
- 全捜査員に告ぐ。 緊急事態を除き、速やかに本部へ戻れ。 -
メールを見た木葉君は、
「どうやら、照会が終わった様です」
と、里谷刑事を見返した。
気持ちが落ち着いて来た里谷刑事。
「木葉さんの能力は、やっぱり伏せるべきね。 貴方の能力がバレたら、刑事は刑事で居れなくなっちゃうわ」
ほろ苦く笑った木葉刑事だった。
さて、午後の7時。 ほぼ全員が捜査本部に集まった。 警視庁から鴫鑑識員や進藤班の鑑識員が来た。
50人近い捜査員と、警視庁と警察署の鑑識員が揃う。
集まった一同を見る九龍理事官が、静まった会議室で話を始めた。 彼女の後ろには、白いボードに大きく引き伸ばされた写真の1つが在り。 写る人物の四人に赤い丸が付けられていて。
「皆さん。 夕方に、新しい情報が入りました。 尚、この情報は記者などには言わない様に御願いします」
話を聴く刑事達より。
(これ、箝口令・・だよな)
(だろうな)
(25年前の指紋に続きのシークレットってか)
九龍理事官は、耳打ちをする捜査員達を見てから。
「踏田禊さんの失踪に係わる関係者の内、私の後ろに貼って在る写真の赤丸の付く者は、既に死亡している事が解りました」
“捜す相手が死んでいる”
聴いた捜査員のざわめきは、衝撃の度合いを現していた。
だが、木葉刑事と里谷刑事だけは、黙って前を見る。
篠田班長が。
「静かにしろ。 話はまだ終わって無いぞ」
黙る捜査員達を待たず、九龍理事官は続ける。
「赤い丸の付いた関係者は、凡そ1年と3ヶ月前に。 未解決となった、あの首なし・バラバラ事件で亡くなっています」
真実が話されて、会議室の一同が息を飲んで静まり返った。
「ですが、死亡が確認されたのは4人。 まだ、3人の死亡は確認されてません。 畠中を始めとし、関係者を追って貰います。 本日は、これで解散とし。 明日より、捜査に邁進して貰います。 尚、明日は捜査会議をしません。 会議室にて配置と追加情報を確認次第に、捜査へ行って下さい」
解散が言い渡されたのに、捜査員や鑑識員は動けない。
「あの事件で…」
「そうか、奴等も詐欺師だ」
「恨まれても仕方無いな」
「おい、そう云えば。 聴き回った先でも、家族があの事件の犠牲者って居たよな」
「あ、居たっ」
あの事件の時の絶望感は、もう警視庁や所轄の刑事には伝説みたいなもの。 捜査員の脱力感は、九龍理事官にも見えるほどに感じられた。
それから、ぽつりぽつりと捜査員が帰り始めた。 木葉刑事の薦めも在り、家族持ちの飯田刑事、織田刑事、如月刑事は勿論。 市村刑事も、八橋刑事すら帰る。 篠田班長ですら、今夜は帰ると席を立つ。
そして、
「なぁ、ヤソ。 今日は帰ろうや」
「はい。 流石に、家で一杯遣りたいです」
松原刑事と八曽刑事ですら帰る。
本日、警察署に泊まる捜査員は、夜勤待機の者だけ・・とは行かない。
「木葉殿」
会議室に居た鴫鑑識員は、窓側に退いた木葉刑事に近寄る。
「鴫さん、お帰りに成らないんで?」
「妾は、仕事を家に持ち帰りたく無いのじゃ。 この様に成っては、流石に帰る気が失せてしもうた」
「さいですか」
里谷刑事も来て。
「こんな怖い事を聞かされて、一人の部屋も嫌だって~の」
だが、表情が硬い鴫鑑識員は、
「のぉ、木葉殿。 この情報の発端は、貴方で在ろう?」
探りを掛けて来た。
「否定はしません」
「まさか、記憶が甦ってしまったのかぇ?」
「まだですよ。 ですが、この体に刻まれた記憶らしい。 飯田さんや織田さんから、聴き込みであの事件の被害者の話を聴いた時。 自然とそうなんじゃないか、と思いましてね。 ま、疑惑潰しに九龍理事官へ進言しましたが・・・ヒットでしたね」
「木葉殿。 明日からは、どうなさるおつもりか? 畠中なる者、亡くなっているやも知れぬぞぇ」
「死亡が確認されるまでは、相手を捜すのも刑事の仕事ッス」
刑事らしい事を言った木葉刑事だが。
「だけど…」
間を空けてから言う木葉刑事に、里谷刑事と鴫鑑識員が注視すると。
「寧ろ、死亡の確認が出来たのが、何であの4人だけだったのか。 やっぱり、あの亡くなってる4人だけで、なぁ~んか悪い詐欺でも働いて居たかな?」
里谷刑事からすると、それが当たり前に思える。
「私たちが追う事件から、去年の頭までだけで7年ぐらい在るわよ。 その間に詐欺をしない訳ない」
「ですが、死を以てして殺害を依頼するなんて、よっぽどじゃないですか?」
「ん゙~。 でも、高齢者って、働くのも大変よ。 騙されただけでも、怒りや恨みも強そう」
4月にしては、まだ寒くなる今夜で。 ふと窓を見る木葉刑事は。
(また、凍蠅か)
窓の隅に固まる蠅が、じっとして動かない。
(まだ、時期尚早っての?)
あの本名が解らない被害者に、自分達の捜査が繋がらない。 勘は、確実に繋がると訴えているのに…。
さて、明日からはどうなるか………。
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