時が満たりて凍蠅が葬列を為せば、埋もれた罪が時効の天秤にて計量(はか)られる

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        * 誰も聴きたく無い、嫌な事件に関わる情報が伝わった次の日から、畠中の捜索は始まった。 木葉刑事は、大学の後輩で2課に移った迅から情報を得て。 市村刑事や髪の長い荘司刑事等を伴って連日、畠中の知り合いなどを当たった。 今から4年ほど前か。 組織的に違法賭博をするグループを、傷害致死の線から挙げた事が在る。 その時の事を知るのは、今の捜査本部内だと飯田刑事と篠田班長しか居ない。 違法賭博の方は、組織対策室扱いとなり。 その時に居た迅は、この一件で畠中を逮捕していた。 この時で、畠中の居た組織やグループは空中分解したが。 その当時の仲間は、大半が悪事から足を洗っていた。 然し、その仲間の中でも、後に成って足を洗った者が錦糸町のラーメン屋に勤めていた。 昼頃、曇り空の下でその彼より話を聴くと。 “畠中は、まだ足を洗ってない。 半年ほど前、俺の所にわざわざ来て、詐欺を遣らないかって誘って来た。 俺なんか誘うって事は、よほど仲間に成りそうな奴が居ないんだろうな” ラーメン屋で働く人物に話を聴いた市村刑事と木葉刑事は、その店で昼を過ごしながら。 「木葉、どう思う」 「半年前…。 まだ都内に居るといいッスね」 「そうだな」 二人に付く岡崎刑事、荘司刑事は、もう木葉刑事の事が良く解らない。 話を聴いた者の店で、平然と飯を食べるなんて…。 またそれは、こんな処も。 「野菜ラーメン2つと、担々麺、ワンタン麺です」 ヤクザの作った下部組織、それみたいな場所から足を洗った男性が運んで来ると。 「うわぁお、ワンタンがたっぷり。 これで780円? 安いねぇ~」 刑事の顔が外れて、只の人に変わる木葉刑事。 運んで来た男性は、そんな木葉刑事に毒気を抜かれ。 「味も保証しますよ。 親っさんは、腕もいい」 頷く木葉刑事はコショウを使いながら、 「これが自前で作れる様になれば、暖簾分けも見えて来るんじゃない? 頑張ってね」 と、食べ始める。 刑事相手だから身構えてたのに、完全に肩透かしを喰らったみたいだ。 「どうも。 ごゆっくり」 男性が下がると、市村刑事が。 「木葉、ワンタン1つくれよ」 「じゃ、野菜ラーメンの木耳を下さいよ」 学生の仲間の分け合いみたいで、岡崎刑事や荘司刑事は益々呆れる。 食べ終わると、お代を払うなりに。 「ごちそうさん。 この値段で頑張ってね」 いけしゃあしゃあとすらして言う木葉刑事。 年配者の店主も、苦笑いして頭を下げて来た。 そして、車に向かう間。 「木葉、あの男は白と見ていいな」 「そうですね。 客への対応もチャントしようとしてますし。 半年以上も畠中が来てないならば、他に宛を捜したと考えた方がいいッス」 後ろに付く若手の二人は、あの男性を見極める為に店に居たと此処で解る。 市村刑事が遣っているなら解るが、木葉刑事がそれと肩を並べるのが解らない。 そして、次に訪ねた相手は女性だ。 違法賭博をしていた時に、金持ちの脇に侍(はべ)って相手をしていた女性だ。 今は風俗店に勤めている。 午後2時前。 新小岩の賃貸型となる中型マンションの一室を訪ねる。 「はぁ~い」 まだ眠たそうな女性の声が、インターホンより聞こえて来た。 対応する市村刑事が。 「此方は、警察の者です。 以前の事で、少しお話を聴かせて貰えませんか」 すると、舌打ちが聞こえたと思いきや。 「待って、今開ける」 勝手に入れとばかりに開いたドアの先には、際どい下着姿にトレーナーみたいな上着を羽織るだけの女性が居た。 ジッパーを填めて無いから、黒い半カップブラが丸見えである。 「中に入ってよ。 他に住んでる人は家族持ちも多いから、刑事を見られたくないの」 訪ねた女性が言う。 この女性は、《水崎》なる女性。 違法賭博で逮捕された時は、24歳と云った。 今は、アラサーぐらいか。 細身の体は色っぽく、確かに男性に好かれそうなタイプ。 短めの髪だが、それが顔を隠す時にエキゾチックさも醸した。 3LDKの間取りとなる部屋のダイニングキッチンで。 椅子に座った彼女が、ペットボトルのコーヒーを手にし。 「で? 話って、何?」 市村刑事が代表し。 「実は、7年ほど前の或る詐欺事件で、畠中と云う人物が絡んでまして。 話を聴きたく、捜しているんですよ」 「畠中。 ハタちゃん、まぁ~だそんな事を遣ってるんだ」 「最近、お会いに成りましたか?」 コーヒーを一口した水崎の姿に、荘司刑事は情欲をそそられた。 市村刑事を見返す水崎は。 「知ってるわ。 私が直接に会った訳じゃ無いけれど。 私の知り合いに居る円藤って云う電話係が、ハタちゃんと会ってる。 私に会いたがったみたいだけど、私が話を蹴った」 「蹴った…。 それは、何故ですか?」 「確かに、違法な事をしてパクられたけど。 最初は私も、あの組織の被害者だったのよ」 「ほう」 「ま、暴力や金に呑まれてさ、仲間に成ってたけど。 あの時、私に自由は無かった。 でも、今はこの通りに自由よ。 何で今更、あの時の奴等の仲間に成るのさ。 私、別に悪く成りたかった訳じゃ無い…」 「では、その円藤と云う人物に会えば、畠中の居場所が解ると?」 「多分。 私は、受け取らなかったけど、円藤さんは連絡先を受け取ったって言ってた。 あ、ちょっと待ってね」 席を立った水崎は、寝室に行った。 そして戻れば、スマホを片手にし。 「これが、円藤さんの連絡先。 10日ぐらい前に来たから、今も繋がると思う」 連絡先を書く市村刑事に代わり、木葉刑事が。 「その方も、元は違法賭博に関わりました?」 「違う。 彼は、前々からの知り合いみたい。 ハタちゃんが、学生の頃からの」 「なるほど。 有り難う御座います」 頭を下げた木葉刑事だが、何故か水崎に近付くと。 「最後に、もう1つだけお尋ねします。 この女性に、見覚えなんか在ったりしますか」 本件の被害者たるあの女性の写真を出した。 「防犯カメラのものなんで、ちょっと見難いかも知れないんですが…」 その写真を見た水崎は、写真を手にしてから数秒で表情を変えた。 「この人、知ってる…」 このタイミングで、本件の被害者に繋がるなど誰が予想しようか。 (ウソだろっ) (凄い、勘) 荘司刑事と岡崎刑事が、もう神業と驚いた。 市村刑事も驚いたが。 「何処で?」 写真を返す水崎が。 「私が刑務所に居た時に、詐欺で捕まった大崎って年上の女が居たの。 私とその大崎って人、出所の日が同じでね。 私が先に出て、タクシーを待つ間に。 大崎って人は、この女に迎えられてタクシーに乗って行った。 3年ぐらい前だけど、間違いない」 木葉刑事は穏やかに笑い。 「アリガト~、マジで助かりました」 「い~え。 別に意地悪する必要は無いもの」 「お休み中ごめんなさいね。 では、失礼します」 友人が来たみたいに帰る木葉刑事で。 益々、訳解らんとなる若手の二人。 最後になる市村刑事は、 「まだ肌寒い。 風邪、ひかない様に」 と、言えば。 「有り難う。 面白い仲間の人ね」 言われてしまった市村刑事で、なんとも言えぬままマンションを後にした。 大崎と云う女性の事を九龍理事官に伝えた市村刑事。 「解りました。 そちらは、此方が調べておきます。 その電話係に話を聴いて下さい」 「はい。 それはもう……」 後ろに居る木葉刑事が。 「だ~か~ら、此方は刑事。 なんなら、そっちに行くよ? え? ふざけるな? あーそ、じゃ~店に押し込むよ。 営業許可をちゃんと取ったか調べて行くよ。 錦糸町だよね、知り合いの倉坂さんに話を聴くわ」 木葉刑事が云う、錦糸町の倉坂と云えば、風俗関係の営業を知る古株警察官。 向こうが慌て様が、木葉刑事は構う事なく遣ろうとする。 「え? 何を聴きたいか? いやいや、パトカーで聴きに行くってば。 止めろって? 営業許可の無い風俗店なら、普通パトカーで取り締まりじゃない?」 理事官との話を終えた市村刑事は、 (相手め、断ったな。 木葉は、話を聴くまで粘るぞ~) と、思っている間に。 「畠中、畠中さんの連絡先が知りたい訳。 なぁ~に言ってるのさ。 居場所を知りたいから、連絡先を聴いてるんだよ。 え? 知ってる? 早く言ってよぉ~、それで終わるのにさ」 連絡先から、ショートメールで畠中の居場所を貰う木葉刑事。 「市村さん、居場所。 ホテルだそうで」 相手に同情する市村刑事。 「お前って奴は、刑事が天職だよ。 その柔軟さには、誰も敵わない」 そして、夕方の5時を目前にして、千住署に畠中なる男性が連れて来られた。 角刈りを前だけ伸ばした様な髪形で、サングラスにジャケットとスラックス姿。 背は高めで、体つきに鈍った処は無い。 年齢は、40歳までどうか、と云った感じだ。 事情聴取には、市村刑事と荘司刑事に岡崎刑事が立ち会う。 その様子を隣から見るのは、九龍理事官で在る。 一方、会議室では。 木葉刑事と篠田班長が対面に座って居る。 「木葉、よく写真を出したな」 「まぁ、関係者には鉄則と思って見せました。 で、班長。 大崎って人物は、何をして捕まったんですか?」 「ん。 大崎って人物は、確かに健康・美容食品の詐欺で捕まった。 3年ぐらい前に刑期を終えている。 今は、住所が埼玉の所沢だ」 「班長。 これで被害者に繋がりますかね」 「だといいな。 正直、警察庁の御偉方の一部は、この事件の事を注視してるらしい。 未解決で捜査本部縮小となれば、何を言い出すか」 「所沢…か」 「木葉、明日は大崎って女性を尋ねろ」 「まぁ、自分が命じられたなら」 「お前、今日は帰って休め。 この事件の捜査に、殆んど出ずっぱりだろ?」 「あまり疲れてませんがね」 「バカ。 労働基準法なんてのも在るんだよ」 「はいはい」 こんなやり取りがされている最中に、聴取室では。 畠中なる関係者を市村刑事が取り調べる。 「畠中さん。 御宅、数年前にこの人物達と詐欺セミナーを開いてませんでしたか?」 写真を見た畠中は、ゆっくり1つ頷いた。 「田所に誘われて、アシスタントに成った。 一日で100万。 都内、都外、20回ぐらいだった。 この八王子は、17回目だったと思う」 素直に話す畠中に、市村刑事は警戒しつつ。 「そのセミナーが終わった後、踏田と云う女性が来ませんでしたか? この女性です」 写真を見た畠中は、一つ頷く。 「確かこの女、来るなりに母親がどうとか言ったな」 「知らないと」 「いや。 俺は」 “責任者か?” 「と、駐車場で聴かれたがな。 アシスタントと答えると、女はホールの方に行った。 荷物を運んでた俺は、機材車に荷物を積みに行ったよ」 「この女性は、その時を境に消えました。 母親がアルツハイマーを発症しているのに、多額の商品を契約させられたと言いに行ったらしい」 「そりゃあ不味い」 「と、云うと?」 「このセミナー主催者をしていた田所と、此方の“代表補佐”って名乗た森尾って奴は、元は強盗も簡単に遣る暴力タイプだ。 講師をした瀬川に、専門家を称した宇畑が、ブレーン役と成って詐欺師に転向したみたいだ」 「貴方以外の男達は、去年の1月に死んでます」 「あぁ。 あれには驚いたよ。 あの4人、振り込め詐欺に効くって云うステッカーとか、小物を売り捌いている傍ら。 その詐欺に引っ掛かる老人に、高い置物を売ってたらしい」 何で恨まれたか、市村刑事も合点が行った。 「処で、この写真の女性の行方を知らないか」 「さぁな。 だが、田所なんかに噛み付いたら、命は危ないぞ」 「殺害されたとしたら、お前も解るはずだろ」 「それが、俺は現地集合で。 セミナーが終わった後は、片付けさえ終わればオサラバ。 俺の役目は、セミナーの最中に詐欺だとバレた場合の、田所達を逃がすのが役目。 車に乗り込んだら、もう関係ない」 「じゃ、この一緒に写る二人の女性は?」 「右側のふっくらした顔の女は、田所に弱味を握られてた女で、名前は〔古堅〕《ふるかた》って言った。 この女は、生きてるかどうか解らない。 田所にいい様に遣われてたから、生死すら解らないよ」 「じゃ、もう一人は?」 「此方の人の良さそうな美人は、〔向井〕《むかい》と言って、まだ生きてる。 去年、警察(そっち)が岩元を逮捕したろ?」 「岩元と関係が在るのか?」 「あぁ。 俺は、知り合いから頼まれて、岩元の欲しがっていた安物の骨董品を揃えたりした。 金さえ貰えれば良かったんだが、まさか詐欺とはね」 「で? その向井と云う女は?」 「この女は、見た目と腹の中が真逆な女だ。 金持ちの男を騙して愛人に納まったらしいが、金遣いが荒くて別れたらしい。 岩元の舎弟となる〔件〕《くだり》って奴の口添えで、裏営業の風俗店を遣ってたよ。 今も遣ってるかは解らないが…」 「そうか」 此処で、市村刑事は本件の被害者の写真や似顔絵を出すと。 「あと、この女性もセミナーに居たな。 お前達の仲間か?」 被害者の顔を見ると、畠中の表情が失せて行く。 「この女、死んだのか?」 「そうだ。 だから捜査しているんだ」 表情を失った畠中。 「俺も、知り合いの円藤から仕事を紹介すると、あの詐欺に誘われた方だが。 この女の事は、田所しか解らないと思う」 「何故だ?」 「この女の名前さえ知らない。 田所が切り札って言った女だ」 「“切り札”?」 「この女は、田所が別の伝から呼び寄せた“サクラ”なんだよ」 「サクラって、婚活パーティーで人を集める為に顔写真だけ登録したり。 客寄せして物売る時に、真っ先に買って購買意欲を誘うアレか?」 頷く畠中。 「あの女は、確かに大したもんだった。 客側に入って老人と雑談しながら、上手い具合に心配を煽ってたよ」 「んじゃ、セミナーに参加した側にも、仲間が居たのか」 「その女だけらしいがな。 それでも、その女も契約まで交わした。 あの女がサクラとは、誰も解らなかった筈だ」 「そうか…」 質問が無くなり、市村刑事が話を切ると。 「はっ、然し何だな、俺も運が悪いゼ。 どうせならば、その女が殺される所に立ち合えば良かった。 そうすりゃ、今は殺人の共犯で逮捕だ」 聞き捨て成らない台詞に、市村刑事は眼を凝らし。 「どうゆう事だ?」 「この数年。 昔の伝を頼って大きな仕事にありつきたかったが、どうも調達の役目ばかりしてた。 最後に関わったのは、あの岩元の一件。 関東最大のヤクザの親分様は、岩元の仲間を見付けては粛清してるって話さ。 岩元の手下の伝とは云え、詐欺の道具を揃えた俺もどうなるか。 どうせなら殺人にでも関わって、務所に入った方が楽ってもんよ」 「………」 黙った市村刑事で、これが畠中の本心か解らない。 だが、荘司刑事が。 「でもよ。 7年前に、お年寄りを騙した事には変わりないだろう? この詐欺セミナーの件で、2課に調べて貰う事も出来るぞ」 一つ頷いた畠中だが、荘司刑事を見返す眼は何故か鋭く。 「だけどよ。 俺だけの詳言じゃ、事実的な証拠が乏しいぞ。 古堅か、向井を見つけないとな」 最もな事を言われ、ムッとする荘司刑事だが。 市村刑事から見て、畠中は何処か人生を諦めている様な雰囲気を感じたのも確か。 (こりゃ、まだまだ大変だぞ) 事情聴取を見ていた九龍理事官も、その顔は厳しい。 さて、会議室に九龍理事官が戻ると。 「篠田主任」 「はい」 「木葉刑事は?」 「あ、本日は休ませました。 この半月ほど、出ずっぱりだったものですから」 「そうですか」 椅子に座って腕組みした九龍理事官。 被害者の事をまた調べてさせているが、新しい詳言は浮かんで来ない。 防犯影像の線も切れてしまった。 変装した関係者も、どうなったのか解らない。 まだ、我慢の必要な事件となるらしい。 少し遅くなれば、他の刑事達も続々と戻る。 市村刑事より、飯田刑事やら織田刑事も話を聴く。 「さーすがは、木葉だわ。 やっぱり、天賦の勘」 織田刑事の誉め言葉に、同意して笑う如月刑事。 「織田さん、今日は帰る?」 「もう9時だから、明日にするよ。 明後日が休みだからね」 さて、帰って来た八曽刑事は、荘司刑事から今日の話を聴くのだが。 「なるほど、あの木葉さんなら有り得る。 お前、あぁ成れたら一課に直ぐ行けるぞ」 「無理ですよ。 噂に半信半疑でしたが。 あんな事、不正でも無理ですよ」 「あはは、確かにな」 こう言った八曽刑事だが、周りを見て。 「なぁ、荘司」 「はい?」 「ほら、最初の頃に応援で来ていた若手に、偉く顰めっ面の背が高い奴が居たろ」 「あ? あ・・・あー。 〔別所〕って人じゃないですか? 何でも警視庁の鑑識員で、美人の人にしつこく声を掛けてたとか」 「アイツ、全く見なくなったが。 一体どうした」 「解らないです。 俺が木葉さんと出張に行ってる間に、誰だっけ。 あ、あの女性の刑事さんと入れ替わってました」 「なぁーんだそりゃ」 「八曽さん、それより何か食べませんか? 何だか、今頃に成って腹が減ってきまして」 「ま、構わないぞ」 「交差点の先に、回転寿司が在ります」 「お前、二人で回転寿司かよ」 「あ、なら他に誘いますよ」 荘司刑事は、他の若い男女の刑事を誘う。 その頃。 帰らずして、一人で洗濯に行った木葉刑事。 寮に帰るのも面倒で、コインランドリーを利用して居れば。 「木葉さん」 女性の声がする。 「俺に話を聴くなんて、面倒な人ッスね」 彼に近づくのは、白い上下の女性用スーツを着る30代ぐらいの女性。 目はパッチリし、男性受けの良さそうな人物。 上着はちゃんと着ているのに、インナーは胸元が見える着方をする。 「一課なのに貴方達は、特殊詐欺関連を調べて為さるのかしら。 発端の事件を疎かにして、何を遣ってるんだか」 嫌味ったらしい批判を言葉にした女性だが。 怒る様子もなければ、話し合う気も無さそうな木葉刑事。 「ならば、そう書けば」 「あら、淡白ぅ~」 コインランドリーの前の椅子に座る木葉刑事だが。 現れた女性も、空いた椅子に座った。 態とらしく、流し目をし。 スカートが膝まで丸見えとなる。 「然し、貴方も隅に置けないわ。 出張した先の京都で、母子の殺人事件。 石川県では、振り込め詐欺を捕まえるなんて…」 この女性、木葉刑事を尾行していたのか。 何で、それを知ってるのだろうか。 「あっそ。 でも、手柄なんて付いて無い。 それより、高潮新聞のライターさんが、俺に話を聴くなんてネタが無さすぎだよ」 言われた女性は、少し表情を固くする。 「あら、言ってくれますこと。 なんなら、7年前の詐欺事案。 警察が頭ごなしに失踪を駆け落ちと決め付けた、って書こうかしら」 「だから、どうぞ」 覚めて返す木葉刑事に、女性は顔を近付け。 木葉刑事に胸元が見える様な態勢を作る。 「ね、その辺りに進展、有ったんでしょ? だから、今更に調べ始めた。 何でもいいの、情報を頂戴。 ね? 此方も、それなりに何か情報を渡すわ。 何なら、一夜を一緒・・してもイイのよ」 甘い囁きをして、情報を引き出そうとするこの女性。 だが、スマホを手にした木葉刑事は、彼女を見返す気も無いらしい。 「じゃ、今回の事件の犯人の名前」 とんでもない要求に、 「ぶっ。 解ってたら記事にするわよっ。 それより、何で今回の事件は、刑事さんの口がカチカチな訳? 年末年始の薬物・発砲の絡んだ殺人事件並みよ?」 態勢を普通に戻した女性記者。 「基本、喋っちゃいけないんだよー」 「それって何よ。 此方には聴くクセにっ」 「刑事は、公的に犯罪を捜査する仕事なんだから、知ってそうな人に聴くのは当たり前じゃない。 悪いけど、俺に情報を聴いても、無駄。 もっと情報を持ってる方に聴きなさいよ」 「ケチっ」 木葉刑事の口は当てに成らないと解り、コインランドリーから出て行く女性記者。 その彼女を見送りもしない木葉刑事だった。 さて、洗濯を終えた木葉刑事が警察署に戻れば。 「木葉ぁ、お前、まぁだ居たのかよ」 シャワーを浴びた篠田班長が居た。 「班長が早く帰すから、変な尾行が付きました。 アホらしいから、洗濯に行きました」 「文屋か?」 「麻木さんッス」 「高潮新聞社の、美人遣り手ライターだな」 「ボディタッチで罠に掛ける、あの人ッス」 「あぁ、悪いタイミングで帰したな」 コンビニ弁当を片手に帰った木葉刑事は、休憩室で腹だけ満たす。 サッサと寝る彼を、飯田刑事や市村刑事が後から見付けた。 飯田刑事が先に。 「木葉、帰ったんじゃないのか?」 市村刑事も。 「鴫が、お前は帰ったって…」 ベットで横に為る木葉刑事は、 「帰ろうとしたら、外に麻木さんが居ました。 宿舎まで質問責めに成ってもウザいんで。 下着や上着を洗って来ましたよ」 と、寝たまま答える。 「それは災難だ。 市村、あの女を何とかしろよ」 「いやぁ、俺でもあの人物は無理だ。 ってか、嫌だ」 あの麻木なる記者は、飯田刑事と市村刑事にも嫌われている女性らしい。 この日も、アッと云う間に過ぎた。
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