春の激震

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        * 3月10日、晴れ。 警察庁、警視庁の一部は、まだ有賀の一件でざわついて居る。 が、有賀の一件から開放された木葉刑事は、待機番として雑用に勤しんでいた。 例えば、あのSNS事件で関わった高校生の女子生徒に、里谷刑事を伴って物品返却に行けば。 「あの、警察の事をっ。 刑事さんの事を教えてくれませんか? 漫画で、描きたいんですっ!」 SNSで訴えた辺りから観ても、根に情熱的な一面を持っていて、思い込んだら熱量が凄い彼女だ。 誉められた里谷刑事はノリノリだが、木葉刑事は何処まで教えて良いのか困る。 (警察職員も守秘義務が在るしなぁ…) こう思う目の前では、裏側のしょーも無い事まで喋り過ぎる里谷刑事に、ドキドキ・ハラハラして…。 夕方に、喋り倒してスッキリした里谷刑事とダラダラしながら警視庁に戻れば…。 篠田班の部屋に、以前の事件で特捜に関わった山田班長が居て。 「よぅ、木葉。 あの憎き有賀を追い返したってな?」 「山田さん、その話はもう勘弁して下さいよぉ~。 数日、公安の方に監視されたりして、迷惑しか無いッス」 「ふっ、有賀にも、遂にキラーが現れたな」 話を嫌がる木葉刑事の脇に来た山田班長は、腰を机に預けて。 「所で、木葉よ」 「はい?」 「後嶋多会長の殺人だが」 「あ、はいはい…」 経過を知りたがる周りが、そば耳を立てる。 山田主任に、飯田刑事が御茶を渡す。 木葉刑事は、二本分の缶コーヒーを出した所。 御茶の礼をジェスチャーで返した山田主任は、缶コーヒーも手にしてから。 「お前の先読みは、まるで千里眼だ。 あの三宅議員は、後嶋多会長から多額の賄賂を受け取っていた。 土地、金、名誉としてな」 「詰まり、公共工事とか。 その工事などに関わるセレモニーとか。 国有地を払い下げされた後に、空売りで得た土地とか…」 「その通り。 後嶋多会長の遺した証拠書類には、その辺りも解る記載が在った」 其処へ、八橋刑事が飯田刑事に小声で。 (セレモニーって、何ですか?) (八橋、議員ってのは、芸能人と部分的に変わらない) (はい? 人気取りって奴ですか?) (そうだ。 公共事業で価値在る政策をアピールするに、セレモニーに顔を出すのは手堅いアピールの一つだ。 今、ダムなんかの公共事業は、ムダや癒着が煩い。 だが、後嶋多氏の関わるのは、駅前の再開発や国有地の開発。 顔を出すにしてもバッシングが少なく、TV映りも悪くない) (何か、もうTVに出る議員がみぃ~んな汚く見えますよ) この間も、木葉刑事と山田班長の話は続き。 「山田さん。 そうなれば、もう言い逃れは出来ねぇッスね」 「殺人の依頼人で、秘書にワインを用意させたからな。 美田園管理官は、議員も共同正犯に問うつもりだ」 「なるほど」 缶コーヒーを開ける木葉刑事。 其所へ、如月刑事が。 「山田さん。 3人の供述の方は?」 「三宅は渋ってる。 だが、逮捕初日に秘書が堕ちて、次の日には証拠が揃いすぎてか検事も堕ちた。 状況証拠も次々と集まっているから、認めるまでもない」 アホらしいと織田刑事が。 「渋って裁判官の印象を悪くして、無期でも喰らえばいいよ」 今日も早く帰るつもりの織田刑事だから、既に5時を待つ態勢だ。 だが、山田主任の話は変わり。 「処で、木葉。 話は変わるんだかよ」 「はぁ?」 「あの、芥田が薬物を奪取する為に仕向けた若い奴、居たろ?」 「あぁ、撃たれた彼ッスね? 確か、もう退院したんですよね?」 「ん。 だが、彼が一番の疑問として残り物に成りそうだ」 「と、言いますと?」 「あの板倉って若い奴に頼る必要が、芥田に在ったのか解らない。 他に、危ない橋を渡らせる手下は、何人も居たんだ」 「板倉の姉は、どうなってますか」 「それは…」 口を濁す山田班長。 病気の治療費が無い以上は、どうする事も出来ない。 犯罪で得られた金は、持ち主に返されたりするが。 麻薬を購入した金などは返さないだろう。 その金の使い道は、こうゆう所に割り当てても構わない・・と彼は言った。 少し考えた木葉刑事は、どうやら捜査が行き詰まっているらしい山田班長に。 「山田さん」 「ん?」 「芥田の生い立ちに迫るしか無い、・・かも」 「ん゙~、それかぁ? 芥田は出生を含めて不明な点が多い。 芥田って名前も、本名かどうか解らない。 戸籍は、過去に消えた別の人物の者を乗っ取ってるしな…」 「刑事が調べて先がなかなか割れないなんて、芥田って男も困ったチャンですね」 「おいおい、子供じゃないぞ」 然し、此処で木葉刑事が鋭く。 「でも、もしも板倉って若者に対して、芥田が何等かの共感を感じて遣った・・としたならば。 板倉の故郷から調べ始めるのも在りかも…」 「んっ、ん…」 腕組みした山田班長は、木葉刑事の意見も在りと。 「なるほどな…」 其処で、飯田刑事から肩を叩かれた山田班長で、時計を示す彼に気付かされる。 「あ、もうこんな時間か。 じゃ木葉、またな。 飯田も」 部屋を出て行く山田班長は、篠田班長にも頭を下げてから足早に去った。 だが、残る木葉刑事も、何か思案に耽る。 彼を見る刑事達は、その思案の中には有賀が居る様な気がする。 誰も、話を出来ない。 が、其処へ、ノックがされて。 「失礼するよ」 年配の男性の声がして、全員がそちらを見るや…。 「ぬ゙ぇっ、ちょ、長官っ!」 篠田班長が奇声を上げるや、チェアーを吹っ飛ばして立ち上がり敬礼する。 そう、太原警察庁長官が現れた。 皆、篠田班長に続いて起立して敬礼をする。 「いやいや、楽にして下さい」 穏やかに言う太原長官で。 「皆さん、SNSで炎上での件、素早く対応して解決された。 いやいや、その上に有賀を何もさせず追い返すとは。 私としても礼を述べなければ、気が済まなくてね。 こうして来てしまったよ」 皆、その中心的な人物となる木葉刑事を見る。 太原長官も、ボンヤリ立つ木葉刑事を見た。 が、直ぐに皆へ眼を向けて。 「忍んで来たから、これで失礼するよ。 だが、君達のしてくれた事は、この私が恩に着る。 それは、忘れないでくれたまえ」 護衛の大柄な男性2人が、長官を外へ案内する。 太原長官が去り。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~」 力が抜けて椅子に砕けた篠田班長だが、其処にチェアーが無くて床に落ちる。 「あっ、痛っ!」 凄い音がして、篠田班長が転ぶ。 「班長っ」 「班長、何をしてるんですっ」 皆に助けられる篠田班長だが。 「だって・よぉ~。 長官って・・反則だろうよ。 あ、痛たた…」 チェアーに座らされる篠田班長は、木葉刑事を見て。 「お前、“退屈”って言葉を知らないのかぁ? ち・長官だぞっ?」 「班長。 自分が呼んだ訳じゃ無いッスよ」 「バカっ。 呼ばなくても、有賀なんて追い返せば、くっ、来るんだよっ」 だが、木葉刑事からして。 「恩に着なくていいッスから、里谷さんの為に、飲食代を百万ぐらい置いて行ってくれないかな」 ボヤキを聴いた篠田班長と織田刑事は、正にその通りと頷く。 「木葉さんよぉっ、アタシが何だってぇ?」 怒る里谷大明神を見棄て、皆が帰ることにする。 篠田班は、今日も元気で在った。
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