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キーンコーンカーンコーン……
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、教室はあっという間に賑やかになる。
高校生になってまだ間もないある日、東郷伊織は新しいクラスメート達と話に花を咲かせていた。
学校の近くに美味しいたこ焼き屋があるから今度帰りに寄ってみないか、という食い意地の張った男子の話に始まり、隣の駅前にあるクレープの店に一緒に食べに行きたいという女子たちからの誘い。
伊織は自分が先頭を切って動くタイプではなかったが、いつも仲間たちの輪に囲まれていた。
「ねぇ、見てよ。またあの子占いなんてやってるわよ」
女子の一人が教室の窓際を指さした。
真剣な眼差しでタロットカードを机の上に広げている女生徒がいる。
動くたびにポニーテールが揺れていた。
他の女子たちに囲まれながら、松本さやかはカードを真剣にめくっていった。
「あっ!真由ちゃんの恋愛運は最高だよ!もうすぐ好きな人に告白されるかもしれない!」
さやかの目の前に立っていた女子・真由はパッと表情を明るくして両手を胸の前で握りしめた。
周りにいた他の女子たちも羨ましそうにその様子を見つめている。
さやかは占いが大好きな女の子だ。
クラスメート一人一人が自己紹介をした際に、『得意技は占いです』、なんて言ったものだから、女子たちは一斉にさやかに注目したのだった。
興味本位で占ってもらった最初の女生徒がさやかの占いが当たったと吹聴したものだから、その噂は一気に広がり、違うクラスからも毎日彼女に占ってほしいとやって来るほどになってしまった。
まだ高校生になってそんなに経っていないのに、さやかは有名人になってしまった。
「あんた、松本さんに占ってもらったら?『僕の将来はどうなりますか~?』って」
伊織の周りにいた女子の一人、高岡あやめがふざけたように隣の男子・音無勇作に提案した。
あやめはロングヘアーの巻き髪を手で後ろに払いのけるような仕草をした。
彼女は高校一年生なのにとても大人っぽい風貌である。
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