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「ねぇさやかちゃん。高岡さん、今日も東郷くんたちと一緒にいるね?」
「うん、そうだね」
真由に言われてさやかはあやめの方に視線を向けた。
入学式の日に初めて彼女に会い、美人だなぁという印象を受けたのも束の間、彼女に思いっきり体当たりされてみんなの前で派手に転んでしまったという出来事があった。
ぶつかってきたのはあやめの方だったのに、彼女は謝るどころか「邪魔よ、どいて!」という捨てぜりふを残し、さやかを睨みつけて去って行ったのだ。
さやかはしりもちをついたまま呆然と彼女を見つめていたのだった。
そのことがあってから、さやかは無意識に彼女のことが苦手になってしまっていた。
ひっくり返った自分に手を差し伸べて起こしてくれたのは伊織だった。
あやめにぶつかられる前に彼のことをこっそり見ていたのだが、まさかこんなふうに関わることになるなんて、少し気まずかった。
その時の彼はキラキラしていて、もしも王子がいたらこんなふうなんだろうなと思えた。
伊織と話したいけれど、あやめがいるから近付けない。
意地悪だけど美人で、いつも伊織の傍にいる。
あやめが傍にいなくても、伊織と話すのはきっと緊張してしまうだろうからこれでいいのだ。
そうさやかは半分諦めながら、タロットカードを整えて箱に戻した。
ふぅ、と軽くため息をついて伊織の方を見ると、彼もこちらを見ているではないか。
伊織の焦げ茶色の髪がさらりとなびいている。
目が合ってしまい、思わずさやかはそっぽを向いてしまった。
「あら、目を逸らされたわ。まったく失礼な子なんだから」
「おまえが睨みつけてたんじゃないのか?」
勇作に突っ込まれたあやめは彼のことをギロリと見た。
「占いなんて何の根拠もないじゃない?一種の呪いみたいなもんでしょ!」
あやめが、ふんと鼻を鳴らしながら強く言い放つ。
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