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「呪いは言い過ぎだとは思うけど、まぁ非科学的で根拠がないものだっていうのは間違いないよね」
伊織が答えた。
科学で解明できないようなものは、この現代においては無い。
それが彼の持論だった。
同じように、オバケや心霊写真の類も信じていなかった。
その考え方は、彼の父親や、そしてその職業から受け継がれたものかもしれない。
「あの子に聞かせてあげたいわ。根拠の無いことやって人を惑わせて。
迷惑だし時間の無駄よってね」
「別にそれはいいんじゃない?根拠が無くとも、楽しんでるのを無駄だというのはどうかとは思うけどなぁ?」
フッと笑いながら伊織は言った。
あやめは驚いたような顔をしたかと思うと、次の瞬間ムスッと拗ねてしまった。
「東郷くんてさぁ、なんであんなに何でも揃ってるんだろうね」
「え?」
真由が伊織の方を見つめながら呟くように言った。
さやかは、その言葉にきょとんとしている。
「だって、あんなにイケメンで背も高いし。なのにさぁ、お家は超~お金持ちでしょ?どうなってんの!?」
「う、うん。確かに」
いつしか鼻息荒く話し始めた真由に少々圧倒されながらも、さやかは否定しなかった。
伊織の父親は有名な製薬会社の社長であり、伊織は当然のことながら次期社長だと期待されている。
幼い頃からずっと両親から言われ続けてきたし、伊織自身もそうなる運命にあるのだと信じていた。
だが、心のどこかではそんな人生はつまらないと感じてもいるのだった。
「ねぇ、何なの?さっきからあの子の方ばかり見てるけど」
あやめが不機嫌そうに言った。
ボーっとしていた伊織はハッと我に返り、あやめの方を見た。
別にさやかのことを見つめていたわけではない。
これから先に展開されるであろう、つまらない自分の人生のことを考えていたのだ。
だが、そんな言い訳をする必要性も無いため、「そうだっけ?」とだけ言っていたずらっぽく笑い、椅子に座り直した。
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