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思いは折れ
僕は教室から歩いていた。
そういえば小夜子のお母さんやお父さんは少し前までお家にいたけど最近は家にいなかったな。じゃあ半年前くらいか?
そこからあんな調子になってしまったなんて僕は気がつけなかった幼馴染の暴走を側で止められなかった。僕がいるせいで彼らは腕や指を無くして困っているし、危害を与えてしまったから謝っても足りないくらいだ。
目の前に錆びついたクリー厶色で観音開きの扉がある。観音開きはよく戸棚である両方に取っ手があって左右に別れて開ける両開きの一種という知識を歩く辞書並みに発揮しているがそんな場合ではない。僕には絶対にやり遂げなくてはいけないことがあるからそのためにここまで来たんだ。
扉を開くと四方八方フェンス、パイプだが真ん中に小さな突起物が生えていた。ここは屋上で僕はこれからここから飛び降りて死んでしまおうと考えた。
ここのセキュリティが気になる人もいると思うけど今僕がいる棟は部活棟で教室などが入っている棟よりも高いので気が付かれない。それに美術部に所属してた頃に美術室の鍵で屋上の扉が開くことを知っていたからね。試しにやったら開いてしまったもの皆驚きを隠せなかったよ。どうやら部活棟は鍵を統一しているらしく一本鍵があれば悪用し放題って感じだそうだ。
フェンスを登って街を眺めてる時にふと未練を思い出した。僕は小説家になりたかった。そのために執筆をどれだけして、何作完結させただろう。その詳しい数は覚えていない。
小説家といえば自殺した文豪がいたよな。確か有名どころは芥川龍之介に太宰治。個人的に気になった文豪は有島武郎と川端康成だったか?それくらいしか覚えてないな。あの人たちは偉業を成し遂げて死ぬけど僕は特にそんな事はしていないな。しょうがないかまだ高校生だからな。
たった五階建ての建物から頭で着地して死ぬかという実験をして生きていたらそのことを書きたい。まあそのままご臨終のコースでは文豪たちと実際に言葉を交わしてみたいな。
手を柵から離してフェンスを足で蹴ると足自体が殴られたみたいにジーンと音を立てた。足と手は空中でバタバタとはためき頭は順調に下へ落ちていってる。顔は空を見ているので分からないが地面が近くなるのは薄々わかる。
最後まで見ていた空は晴天でキラキラしている訳ではなくどんよりと曇っていて今にも雨が降りそうなくらい薄暗いねずみ色だった。
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