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佳子の病室を出て、車へと向かった。
……あのイケメンが、病院から出てくるのが見えた。あれ?……随分早いな。
手ぶら?彼はそこにあるベンチに座ると、頭を抱え込んだ。
そのまま……微動だにしなくなった。
……あれはヤバいだろ、相当。……俺のせい……だよな。
あー……。このまま放っておくか。放っておかれるのと、元彼に話しかけられるの……どっちがキツイか。
……放っておけなかった。佳子のことも。この……イケメンも。意地悪したくせに。つくづく、Sにはなれねぇな、俺。
「少し……話せませんか? 」
悪意がないのを伝える為に微笑んだ。
自販機の前に立つと
「コーヒーでいいですか? 」
彼のイメージでブラックのコーヒーを手渡した。
「どうぞ」
「……いただきます」
「誰だよ、お前って感じですよね」
「いえ……わかって……います」
やっぱり、分かってたのか。
「はは、そうですか……では、尚更嫌な気分にさせてしまいますよね。……少しだけ、お付き合い下さい」
彼は変わらず無表情で頷いた。
「“恋人”という関係は……不思議だと思いませんか? その関係にある時は……それこそ、親兄弟よりも近いとすら、思います。
リアルタイムでお互いを誰よりもよく知っている。だけれど……別れたその瞬間に……全くの他人になってしまう。一時的な……関係です。……とても……儚い」
「……そうかも……しれないですね」
「彼女とは……3年近く一緒にいました。
だけれど、3年分。僕達には3年分の……縁しかなかった」
「……何が……おっしゃりたいのですか? 」
ここでようやく、彼は俺の方を見た。
「今回の事で……思いました。“結婚”は一生ですよね。“恋人”とは違う。
“夫婦”になれば……彼女に何かあれば、すぐに連絡が来たはずです。
家族になるって……そういう事です。自分に何かあった時も……。
お互いの命に責任を負う。安心をあげられる」
「…………」
「結婚すると……思ってました。……彼女と。でも、僕ではなかった。それは……」
そっちに連絡が来るように、ちゃんとしてあげてほしい。……いつかは。
「一生のうちの3年なんて……短いと思いませんか? 」
気にするに値しない。俺との3年なんて。これからの、時間に比べたら。
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