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「え、マジっすか。お人好しすぎません? 」
……休日出勤のオフィスでそう言われた。
“彼女とどうなったか”聞かれたままに答えた。俺も、そう思う。
「ん? 俺が……そうしたかったんだよ」
「な、なんの話ですか? 」
宮城が俺とそいつの会話に入ってきた。
「あー、聞いてよ、保坂さんさぁ、別れた彼女に献身的に尽くしてんの」
「え? 別れたんですか……」
「そこかよ。別れたのに病院に着替えとか……持っていってんの。優しすぎない? 」
「何で……ですか? ……それって彼女……都合良すぎ……」
言いかけて、止めた。きっと、俺の顔が怖かったからだろう。
「俺が、そうしたかったの」
「でさー、その彼女……もう新しい人……いるらしいよ。それ、お膳立てまでして帰ってきたってよ」
「お前なぁ、べらべらしゃべんなよ。
ほっとけなかったんだよ。彼女だけじゃなく、そっちの彼も」
「そんなに……大事ってことですか? 」
「何かね、身内みたいになってたのかもね。
……ついでに、彼には一目惚れしたのかも」
そう言って笑った。
「そっち系ですか? 」
「いや、類い稀なイケメンだったよ。いやー、見ただけで若返ったわ」
「まだ、若いでしょ」
「そだねー。俺も……落ち着いたら福岡美人探そうかな」
「いっすね、それ」
「あ! 私! クォーターなんです」
宮城が、食いぎみにそう言った。
「は? 」
「お、おばあちゃんが福岡の人で……」
「はぁ」
「だ、だから……」
「あー……俺……外します」
そう言って、去って行った同僚。
社内に宮城と二人。
「異動願い出していいですか? 」
「どこへ? 」
「……福岡」
「何で? 」
「慣れない土地へ行くだけでも、ストレスだろうから1人くらい知ってる顔がいると……安心かなって……それに、私福岡行った事何度もあるから……お、おいしいラーメン屋さん……とか……明太子とか……」
誰かさんみたいで、思わず吹き出す。
「福岡ってラーメンと明太子なの?」
「他にも…ほら、土地勘……」
「あんの? 」
「ないです」
なんだそれ、ないのかよ。声を出して笑った。
「福岡美人ね。“美人”スルーしないで」
「伸び代!伸び代ですよ」
どこまで本気なのか知らないけれど、今はこんなのが……ちょうどいい。
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