決意

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決意

「保坂、ちょっと」 上司に手招きされ、そちらへ向かった。 「何でしょう」 上司の表情から、何かやらかした訳ではなさそうだ。 「ここだけの話……お前、4月から福岡へ行ってもらおうかと思ってる」 「は? 福岡? ……なぜです? 左遷? 」 ちょっと手招きで、こんな話をするものだろうか。 「はは、逆だ、逆。福岡支店、出来るんだよ。九州進出」 「……マジ……ですか? 」 「ああ、お前の実力、評価してる。……ちなみにまだ決まってないけど、役職も就くぞ」 「頑張ります」 「こっちも、手離したくないからな。早めに呼び返すつもりだ。なるべく早く、形にしてこい! 」 「は、はい!! 」 じわりじわりと嬉しさが込み上げる。今までやってきたことが、正しかったのだと。 「あ、まだお前の中だけの話にしといてくれ。内示出るまで。……早めに伝えてやれ。彼女、連れてく……だろ? 」 そう言われて、ようやく……自分の恋人の顔が浮かんだ。 「あ……えっと、彼女も仕事が……」 「OLだろ? 向こうにもあるさ、仕事。……それに、養えるくらいは出るだろ」 そう言う上司に笑ってその場を納めた。 腰掛けOLなんて言われた時代は終わって…… それでもOLというと、結婚を期に辞めていく人も少なくない。 ……佳子……。 俺の彼女は、いつも楽しそうに仕事の話をしていた。自分の仕事を軽視せず、真摯に取り組んでいた。 彼女のそういうところが好きだった。辞めろなんて……言えるもんか。俺の都合で。ましてや、連れて行ったところで……数年でまた戻るかもしれない。 今でさえ、時間が取れない。知り合いもいない土地で……彼女に寂しい思いをさせるくらいなら…… 29歳。 彼女の年齢を考える。待たせられる年じゃない……。 それから、随分悩んだ。どうしても、未練が残る。 ……もし…… もしも……佳子がついていくって言ってくれたら…… 忙しい毎日。だけど……充実していた。 どうしても顔が見たくなって、仕事帰りに佳子の家に寄った。会えなくても、構ってやれなくても、文句一つ言わずに、いつもの笑顔で俺を迎えてくれた。 抱き締めた時の、この気持ち。未練を立ちきらなければならないのか。 悪者になろう。うんと、嫌われてもいい。決心までに時間を要した。 『ごめん。今週末も時間作れそうにない。明日の昼食一緒にいかないか? ちょっとうまいとこ、予約する』 彼女にそうメッセージを送った。すぐに承諾の返信があった。
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