偶然の出会い(side 颯斗)

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昨年の夏。 テレビで初公開されるやいなや、一流の人間だけが足を踏み入れることを許されているはずのバイト先のカフェは、夏休みとあって全国から“自称一流の方”が大勢駆け付けており、連日大賑わいであった。 そのため、通常の社員だけでは客の対応がしきれず、早朝のみのバイトである俺も、臨時で借り出されていた。 「今日から夏休みの間だけ、ディナータイムのヘルプに入ることになりましたバイトの高遠颯斗です。宜しくお願い致します!」 白いワイシャツに黒いスラックス、そして黒いギャルソンのエプロンをいつもの様に身に付けた高校2年生の俺は、いつもとは違う時間帯、スタッフという馴れない環境の元、緊張の面持ちを見せる。 「高遠君、早朝とは違ってかなり忙しくなると思うけれど宜しくね」 ディナータイムの責任者である、30代前半である優男風の副店長は、穏やかな口調に合った仏の様な笑みを浮かべる。 噂には聞いていたが、副店長はとても30代前半には見えない若々しい美貌と品を兼ね備えた、小柄な男であった。 「早速だけど、今夜20時にVIPの方が個室を予約しているから僕と一緒に対応してもらえないかな?」 「は、はい!」 「緊張してる?」 早朝では、そこまで客の出入りはなく、VIP個室を基本的に使うような上得意の来店もまずない。 近所に住むご高齢の紳士や有閑マダムが、せいぜい目覚めの1杯を求めに来るぐらいだ。 そんな俺の心配に気付いたのか否か、副店長は穏やかな笑みを浮かべ、完全に不安な表情で凍りついてしまっている俺の顔を覗き込む。 「大丈夫。店長から、高遠君の接客態度は完璧だ、って聞いているから」 天使のような微笑みに励まされ、これから訪れるであろう激務を最後まで遂行する覚悟を決めたのであった。
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