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結局、水道で濡らしてきたタオルハンカチがドス黒い血の色へと変わるまで、男の顔に付いていた血液を拭き取り看病した。
しかし、このままここに居てもこの男の容態は良くなることがないことを悟り、嫌がる大男をなんとか、自転車の後ろに俺の背に持たれ掛けるように乗せ、近くの救急外来へと運んだ。
「重いっ……」
自ら選択したとはいえ、負傷した男を後ろに乗せて落とさないように漕ぐのは、だいぶ力のいる作業だった。
到着する頃には、すっかり男は意識を手放しており、とてもじゃないが会話できる状態ではなかった。
悪いと思ったが、男のズボンのポケットに入っていた携帯電話をこっそり抜き取って、履歴の1番上にあった連絡先へと電話を掛ける。
その後、男の関係者と思しき人物が病院に到着するまで、唸り声を上げる男の手を傍でずっと握っていた。
何もできなかった自分が悔しかったのもあるが、何より介抱した人間を、無下に見捨てることがどうしても出来なかったのだ。
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