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カフェ近くの公園で行き倒れてから、1年と5ヵ月。
11月上旬の早朝、ようやく俺は見つけた。
いつもより仕事が押した俺は、眠気覚ましに入った常連のカフェで、お礼をする為にずっとあの日から血眼で捜していた、俺を助けてくれた心優しい青年を……とうとう見つけてしまったのだ。
まさか、こんな予期せぬ場所で出会えるとは思っておらず、鼓動が急に高鳴った。
どうやって話しかけよう、どうしたら俺のことに気が付いてくれるだろう……
知らぬ間に、初恋の時のようなワクワクした気持ちとなっていた。
俺は、そこそこ世間では有名な俳優だ。
しかし、今の今まで俺の前に名乗り出ることすらしなかったということは、明らかに俺に気が付いていなかったのだろうか。
それとも、欲の無い人間なのだろうか。
大抵の人間は、金か人脈か、で揺すりをかけてくるのが常であるが……
その時、丁度運悪く俺の跡を着けていたと思われる、1度だけ過去に抱いたことのある女優が店へと入って来るのが見えた。
油断していると、すぐこういうことが起こるのだ。
面倒くさいのが来たな……
小さく舌打ちをする。
だが、そこで1つの名案を思い付く。
偶然にもオーダーに来てくれた捜し人でもある彼を、見せかけだけでも、しつこい女の前で俺のモノにしてしまう強引な作戦だった。
一か八かに賭けて店員の彼にキスをする。
彼は一瞬驚愕していたが、それに気が付かないふりをした。
そして、今日こそ逃がしやしない……
そう誓った――。
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