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『先程、俳優の龍ヶ崎翔琉さんが無事にハリウッド映画の撮影を終えて、日本へと帰国しました』
早朝のワイドショーで、あの男の帰国が伝えられた。
プツッ
俺、高遠颯斗は他に誰もいない、バイト先の控え室に備え付けられたテレビを唐突に消す。
俺が早朝5時から3時間限定でバイトをしている、一流の人間のみが出入りできる六本木にある高級カフェは、高校生にしては超高額の時給を提示してくれる素敵な職場だ。
その代わり、常に接遇や身だしなみ等、高校生バイトにも高水準が求められる厳しい職場でもある。
フロアに出る前に、俺は控え室にある姿見で全身のチェックをする。
「よし、大丈夫だ」
ほんの少しの髪の毛の乱れを、軽く手ぐしで直し、鏡に映る自分へと声を掛ける。
「おはようございます。今まで、お休みありがとうございました!」
始業開始15分前にフロアに出た俺は、既に仕込み準備を行っていたキッチンスタッフや30代半ばのイケメン店長に、いつもより大きな声で挨拶する。
「颯斗、待ってたよ!大学合格おめでとう」
優しくも厳しい若手のできる店長は、笑顔で俺の復帰を待ち侘びてくれていた。
「ありがとうございます」
深々と頭を下げると、その場にいたスタッフ全員から祝福の声と盛大な拍手が贈られる。
大学受験のため、1ヵ月程バイトをお休みさせてもらっていた俺は、無事に志望校へ合格したところで復帰をした。
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