第二十四話 やりましたね、課長

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「妹尾の姓は妻の実家のものでな。隆成というのも読み方は違うが、この子の本名であるのは間違いない。『御剣(みつるぎ)隆成(たかなり)』。これが儂の孫であるこの子の名前だ。いい機会なんでな、皆も覚えておいてくれ」  わっはっは。わっはっは。  会長の豪快な笑い声に、管理職の皆さま方も釣られるように笑い始める。とはいえ、みなさん、顔が相当引きつっている。特に遠藤専務は血の気が完全に引いてしまっている。それもそうか。会長の孫に手を上げようとしたのだし。会長の孫の前で俺を殴っているし。レジメを盗んだり、データを消失させたりしているのだ。もしかしたら、そのすべてが会長に筒抜けかもしれない――と思ったら生きた心地がしないのも致し方ない。自業自得というにはあまりにも不幸だろう。元凶は他でもない俺たちであるのだから。会議が終わったら、なるべく早く誤解を解かなければ。 「さて、小宮山君」  笑いを収めた会長がずずいっと俺の前にやってきた。下からぐうっと力強い視線が上ってくる。ごくっと大きな唾を空気と一緒に飲みこんだ。会長から発せられる気に押されて、一歩後退しそうになる。なんとか必死に足を叱咤して、踏みとどまる。 「会社で猫を飼うという君の考え方に儂は期待しようと思う。君はそんな儂の期待にしっかり応えられるかね? 君の語ったビジョンを実現できるかね?」     
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