第三話 課長と係長

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 椅子をゆっくりと回転させて、ケージを見る。思わず口を両手で覆った。  ――なんて愛らしい!  係長がピンクの毛布の上で丸くなって眠っている。口元が笑っているように見える。その無垢な寝顔に俺の胸がきゅんっとかわいい音を立てた。  一気にイライラが鎮まる。心がほわんと温かくなる。なんだろう、この気持ち。ずっと見ていたい。できるなら、隣で横になりたい。 「課長……あの……この書類なんですけど……」  夢から一気に現実に引き戻される。慌てて椅子を元に戻した。危ない。もう少しでメルヘンの国へ旅立つところだった。 「わかった」  部下から書類を受け取って目を通す。しかしどうにも目が滑る。  振り返りたい衝動を必死に押し殺しながら、書類とにらめっこする。  そんな俺を見た妹尾がくすっと小さく笑ったような気がした。
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