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自分のデスクに走っていき、足元からパンパンに膨らんだ大きなボストンバックを取り出して妹尾は笑った。どこまでも気配りの男である。
「お泊りセットって……ここにおまえが泊まるのか?」
「だってひとりじゃかわいそうですし」
「おまえなあ」
「安心してください。こう見えて、ぼく頑丈なんですよ!」
右腕をパンパンと叩いて強さアピールをする妹尾の姿に、俺の胸が不覚にも小さく跳ね上がった。
こいつらを残して自分だけ帰れるわけがない。かといって、暖房のつけられない部屋に居続けるのは遠慮したい。
「おまえも来い」
「え?」
「おまえも一緒に俺のマンションに来い」
「課長のマンションですか?」
彼が驚いたように目を見開いた。なにを言っているんだ、俺。これは決していかがわしい考えで言っているわけじゃない。そうだ。猫のためだ。猫のためなんだ。
「俺は猫のことはわからないから……一緒に来て、俺に教えてくれ」
彼の顔が霧が晴れるようにぱあっと明るく輝いた。
「はい!」
かくして俺はバレンタインの夜に子猫とかわいい部下を連れて帰ることになった。
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