第五話 しあわせホルモンが出るんです

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 妹尾から受け取ったペットボトルに口をつける。乾いた喉を温かなお茶が潤してくれる。普段から飲みなれているはずなのに、今夜はやけに美味く思えた。 「なあ。そいつ、どうしたんだ? 拾ったのか?」  妹尾の腕の中で小さく丸まって眠る係長をチラ見して尋ねた。猫のことに詳しくはない。しかし、どうにもペットショップで売られているような血統書つきには見えない。 「ぼくのアパートの近くに捨てられていたんです。みかんのダンボールに入っていました。一昨日のことです」 「そのままおまえが飼えばよかっただろう? おまえ、猫好きみたいだし」 「飼いたいのは山々だったんですけど。その……」  いつになく歯切れが悪い。妹尾はもごもごと言葉を濁した。 「なんだよ? どうかしたのか?」 「その……立ち退かないといけなくて」 「は?」 「今、ぼくが住んでいるアパートなんですけど、築60年のオンボロでして。近いうちに取り壊すことになるので、立ち退かないといけないんです」  だから今、住むところを探していましてと妹尾はつけ加えた。 「それに隙間風もすごいし。床もふかふかで抜けそうだし。風呂も壊れてまして銭湯通いです。ぼくは平気でもこの子には酷だなと」 「それで俺に目をつけたのか」 「いえ、そうじゃありません! そんな理由じゃないんです!」     
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