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ふわふわした綿毛のような茶色の髪に童顔の妹尾隆成、入社四年目の27歳。年齢よりもずっと年下に見える愛らしいルックスにやわらかな物腰の中性キャラで女子社員に人気の彼は、俺の問いかけにふるふると小動物のようにかわいらしく首を振った。
「課長へのバレンタインの贈り物です!」
二つのつぶらな目をキラキラと輝かせ、俺の前にダンボールをずずいっと差し出してくる。
急いで俺は周りに視線を走らせた。女子社員達が好奇の目で俺達を見ている。中にはひそひそと耳打ちし合っている者までいる。
「そうか。ありがとう」
この場に漂う異様な空気を早く回収してしまいたくて、ダンボールを受け取る。思ったよりズシッと重みがある。予想していなかった重みに体勢を崩し、箱を落としそうになる。
「あっ。ダメ!」
妹尾が慌てて手を伸ばす。その指先が俺の手の甲に触れる。至近距離で彼と見つめ合う。
刹那、空気が張りつめる。周りにいる社員たちが固唾を飲んで見守っている。おそらく箱を落としそうになったことに対する緊迫感――ではないと思われる。
「みぃ」
薄く張った氷の上を歩くときみたいな緊張感が走るオフィスで、か細い鳴き声があがる。
「なにか言ったか、妹尾」
「いえ、ぼくじゃないです。その子です」
「その子ってなんだ?」
「箱の中の子です」
妹尾が笑う。無邪気な顔で。俺の手の中にあるダンボールをまっすぐに指している。
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