第一話 バレンタインの贈り物

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第一話 バレンタインの贈り物

 2月14日バレンタイン。この日は俺にとって苦痛でしかない。 「課長! いつもお疲れ様ですっ!」  女子社員からの頂きもののチョコレートの箱が山積みになった俺のデスクから向こう側が見えなくなる。今年はいくつ貰っただろう。これを必死になって一年かかって食べる俺の苦悩を部下たちは知らない。 「ああ。ありがとう」  甘いものが得意じゃない。中でもチョコレートは一番苦手としている。しかし部下からの好意を無下にもできない。ましてや苦手なんて絶対に口にできない。  40歳独身、彼女なし。180cmの高身長に、そこそこ整った顔立ちのおかげで、社内では独身女性の最後の砦と言われている。仕事ができるクールで優しい上司として通ってしまっている俺としては、部下に弱みは見せられない。  甘い匂いに耐えながら、俺は用意していた紙袋の中へひとつ、ひとつ丁寧にしまっていたときだった。 「小宮山課長!」  勢いよく名前を呼ばれて手をとめる。「ん?」と顔を上げると、にこにこと頬肉をゆるめた男子社員が20㎝四方の小さなダンボールを持って立っていた。 「なんだ、妹尾(せのお)。おまえも誰かにチョコをもらったのか?」     
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