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第四話 お泊りセットも持ってきました
「お疲れ様でした。お先に失礼します、課長」
「ああ、お疲れ様」
定時を過ぎて次々と帰っていく部下たちを見送る中、妹尾はまだオフィスに残っていた。普段なら19時にでもなれば帰るはずなのに、今日は一向に帰る気配がない。
「おい、妹尾。おまえも早く帰れよ」
そう声を掛ける俺に、妹尾は「帰れませんよ」と答えた。
「なんで?」
「だって、一緒に係長を育てるって約束したじゃないですか!」
仕事のために残っているんじゃないのか――と喉を掻い潜りそうになる言葉を押し戻す。
「コイツなら俺がちゃんと面倒見るから」
「課長は猫、育てたことないじゃないですか。課長をひとりにさせるなんてできません!」
ごもっともだ。
「猫の飼い方ハウツー本を買ってだな……」
「係長、ほら。ご飯だよ」
人の話をまったく聞かずに妹尾は係長に猫用のフードの入った皿を与えた。
「ミルクと混ぜてあるのか?」
「はい。カリカリフードはまだ歯が生えそろっていないこの子には硬いので、ミルクで少しふやかすんです」
「へえ、そうなのか」
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