第二話 育成キットもご用意しました

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第二話 育成キットもご用意しました

 誰もついてこないことを確認して会議室の扉をしっかり閉めた後、妹尾を椅子に座らせた。子猫の入ったダンボールをテーブルに置くと、彼の対面に座る。 「これをどうしろと?」 「飼ってください」  真顔でキッパリと妹尾は言いきった。ゆずる気はないらしい。 「俺のマンションは動物飼育は禁止されている」 「じゃあ、ここで飼いましょう」 「あのな、妹尾……」 「課長は猫、お嫌いですか?」  そうじゃない。そういう問題じゃないんだと説得しようと俺は彼を見た。しかし喉元まで出かかった言葉を飲みこむしかなかった。四つのつぶらな目が俺をじっと見上げている。一組は妹尾の黒い目。もう一組はつぶらな小さなアクアブルーの目。 「俺は……猫を飼ったことがないんだよ」  片手を額にくっつけて彼らを見ないようにする。そうじゃない。そうじゃないだろう、俺――と思うのに、反論できない。どうにかしぼりだした断りの理由に、妹尾は黙りこくっている。     
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