第三話 課長と係長

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第三話 課長と係長

 オフィスに戻るとすぐに妹尾は子猫の育成キットをセッティングした。慣れた手つきでテキパキとケージを組み立てる。トイレに砂を入れて表面をならした後、トイレシーツを丁寧に受け皿の下のスライドケースに敷く。完成したトイレはケージの一階に置いて、隣に毛布をたたみ入れる。子猫がトイレに行けるように爪とぎはトイレの隣に設置して足場にしてやる優しい心遣いも忘れない。 「どうですか、課長!」  育成キットを組み立て終わった妹尾が額ににじむ汗を拭いながら、爽やかな笑顔を添えて俺のほうへ振り返った。 「立派だな」  俺のデスクの真後ろに二階建ての立派な猫のお家ができている。その高さ、およそ120㎝。しかも、だ。狭い場所でも大丈夫なようにスリムタイプを選んだらしい。おかげで思ったよりも窮屈には感じない。よくできた男だ。コイツが異性だったらどんなによかっただろう。いや、コイツを恋人にできるヤツがうらやましい。細やかな配慮。曇りのない素直な笑顔。超がつくほどのポジティブ思考。 「う……!」  ぎゅうっと胸がしめつけられる。思わず自分の胸をつかむ。心筋梗塞か。最近、ストレス過多でタバコの本数が増えているせいかもしれない。     
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