猿を食す

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 セシカはかわいらしく燎に聞いた。 「いいんですか? お邪魔なのに」 「多い方が楽しい」  亜衣は二人きりじゃないので残念な気持ちとなったが、それを見せないように笑顔を作った。 「伊久見先生がそういうなら。ね、セシカさんも飲んでいって」  亜衣も引き留めたので、「それじゃあ。少しだけ」と、セシカはソファに戻った。  亜衣は燎が持ってきたワインのエチケットを見て感心した。 「あら、いいワインですね」 「頂き物だからよくわからないよ」 「どなたからですか?」 「機器の営業。奮発したみたいだな」  目の前で談笑するカップル。  セシカは黙って飲んだ。  でも心の中は黒い感情が渦巻いている。 『今は幸せそうにしているけど男なんて、新しい女が目の前にくれば、目移りするの。新しい女が抱けるなら、恋人のことなんて忘れて抱くのよ』  亜衣は寡黙になったセシカを心配した。 「大丈夫? 酔った?」 「二人の熱気に当てられちゃった。あーあ。私も素敵な恋人が欲しいな」 「セシカさんなら、すぐ出来るわよ」 「それがいないのよ。誰かいい人いないかしら」 「俺の助手はどうだろうか」  急に燎が話しかけてきた。 「え!?」  突然のことにセシカは驚いた。  亜衣も驚いた。 「急にそんなこと勧めるなんて、一体どうしたの?」 「実は彼が彼女に一目ぼれしたらしく、今日そのことで亜衣に相談しようと思ってきたんだ。二人がいて丁度良かった」  亜衣は手を叩いて目を輝かせた。 「彼ならいいわ! 宇谷君はとってもいい人よ。セシカさんも燎の部屋で見たでしょ?」「え…。ええ…」 「彼は絶対お勧めよ。お似合いかもね」  亜衣は二人の性格が合うだろうと考えてお似合いと言った。 『助手って、あの牛乳瓶の底メガネ!? 夕方なのにまだ寝癖が立っていた。イケメンでもない。背もちっちゃい。ちっちゃい男は嫌い。しかも助手でしょ? お金、持っていないじゃない。なーにが、いい人! よ!』  燎と差がありすぎる男を紹介されてセシカは腹が立った。  なにより一番腹が立ったのが、お似合いと言われたことだ。 『内心では私をバカにしているのね!』  思わず顔が引きつる。  さらに燎の提案に驚いた。 「そうだ。今度四人で温泉でも行かないか?」 「行きたいわ!」亜衣は大喜び。 「え、四人で?」 「費用は俺が持つから、行こう」
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