155人が本棚に入れています
本棚に追加
「行きましょ、行きましょ。別に絶対付き合わなければいけないわけじゃないし、どんな人か分かるから」
お金を出してくれるならいいかとセシカは考えた。
この旅行で何かのチャンスが手に入るかもしれない。
「そこまで言うなら。行こうかな」
「じゃあ、決まりだな。今度の休みに行こう」
「楽しみー」
亜衣は純粋に喜んでいる。
燎は宇谷に電話をして、こちらも了承した。
***
“シャアアアアアーーーーー”
セシカは、ネットカフェでシャワーを浴びた。
水圧の弱いシャワー。
あまりに勢いがないので、気持ちよく浴びるどころかイライラする。
「ハァ…。ちっとも泡が流れない」
思わずため息が出た。
そうこうしているうちに時間切れとなってお湯は途切れた。
仕方なくタオルで体を拭いた。
「温泉ならもう少しマシかしらね」
伊比村には温泉がない。
でも男に連れられて村外の温泉地へ行ったことは何回かある。だから温泉ぐらいは知っている。
タオルで足を拭いていると、ひざ裏のケロイドに至った。
『醜い足…』
このケロイドがあるから、心の中には墨のような黒い感情が常に存在する。
シャワールームから出ると、くたびれた風采の中年男がドアに貼り付いていた。「…」「へ、ヘヘヘ…」
見ていると気持ち悪い愛想笑いをしながら離れて逃げて行った。
『シャワーの音でも盗み聞きしていたの?』
他の男性客もセシカが視線を向けるとあからさまに目をそむける。そして、また見る。
目立つセシカは注目を浴びているが気にしない。
「さて、明日は温泉だわ」
セシカは自分のスペースで、念入りに肌の手入れをした。
***
週末になり、セシカが待ち合わせ場所に立っていると車が迎えに来た。
燎が運転している4WD。
助手席には亜衣。
後部座席に助手の宇谷が乗っている。
「おはようございます」
笑顔一杯で挨拶し、車に乗り込んだら出発した。
車内は広々して車高が高く、外が高い位置から良く見える。
宇谷はセシカの隣で、緊張しながらもセシカの方ばかりみている。
猿。
鬱陶しい。
亜衣が後ろをむいてセシカに話しかけた。
「燎はたまに山へ行くから、こんな車なのよ」
「こんなって?」
「大きな車でしょ。燎はモトクロスが趣味なのよね。それで山に行きたいからってこの車にしているの」
「…」
最初のコメントを投稿しよう!