猿を食す

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 燎は亜衣の話を聞きながら、口を挿むことなく黙って運転している。  宇谷も話に加わった。 「以前はよくレースに参加していましたよね」 「唯一の趣味だからなあ」  宇谷の口出しでようやく燎も話に加わった。 「山の悪路を行くんですよね。僕も一度見てみたかったですよ。先生のバイク乗るところ」「たいしたことないよ」  燎は謙遜した。  セシカは燎が伊比村の濠をバイクで飛び越えた瞬間を見ていた。 『あのジャンプは凄かったわ』  あれを見た瞬間、体中に電撃が走ったような衝撃を受けた。 『そうか。何故この男が気になるのか分かった』  さっさと殺せばいいものを、なんだかんだと勿体をつけている。  それはこの男を失うのが惜しいと、心のどこかで感じているからだ。 『私は殺せるのか? この男を』  ひざ裏のケロイドが疼く。  恨みを忘れるなと教えている。    車は温泉地にいく途中で停まった。 「ここの滝は有名なので観光していこう」  燎の提案で全員降りて、滝まで少し歩いた。  亜衣は燎の隣で終始笑顔ではしゃいでいる。  宇谷とセシカはよそよそしく微妙な距離をとって歩いた。  何も話しかけてこない宇谷。 『来るならサッサと来なさいよ!』     
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