猿を食す

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 セシカはイライラした。  “日本百選の滝”と大きく看板が掲げられた滝につくと、周囲にはすでに大勢観光客が集まっている。  亜衣は、「日本百選の滝ですって!」と大げさに喜んでいるが、どうでもいい。  セシカは滝に全く興味はないが、皆に合わせて周囲を回って観光した。  宇谷は滝ではなくこっちの横顔を見ている。  彼も滝に興味がなさそうだ。  売店を見つけた宇谷は、「何か飲み物を買ってきましょう」と売店に走った。 「私も行くわ」  亜衣も売店に向かった。  取り残された燎とセシカ。 『いい機会を与えてくれたわ』  セシカはチャンスと考えた。  燎だけに聞こえるように話しかけた。 「次は二人きりで温泉に行かない?」 「二人きりで?」 「ええ」  燎は少し困った顔をした。  亜衣と宇谷がペットボトルを持って戻ってきたので、セシカは少し離れてそっぽを向いた。 「買ってきたわよ」  亜衣は燎へ、宇谷はセシカにペットボトルを手渡した。  再び車に乗り、ようやく温泉地に到着した。  意外に近かった。 「もっと遠くまで行くのかと思った」 「ここは東京の秘境と呼ばれていて、いい温泉が出るんだよ」
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