猿を食す

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「楽しくない?」 「え? いいえ?」 「そう? 楽しくなさそうなので、心配していたんだけど」 「こういうの、慣れていなくて。友達と温泉にいくなんてなかったから」 「えー? そうなの?」  意外そうな顔で亜衣は驚いた。  露天風呂に浸かって、亜衣と話した。 「宇谷君、どう?」 「どうって?」 「いい人でしょ」 「まだ分からないわ」  何にも話していないのに、彼の内面を分かれというのも無理がある。 「研究ばっかりで気が利かないかもしれないけど、真面目で、将来有望だと思うの。今のうちに捕まえておいた方がいいわよ」 『この人、何を言っているんだろ?』  セシカは疑問に思った。  別にこちらは男の紹介を頼んだ訳じゃない。 「さりげなく女性に優しいのよね」  どこか遠くで誰かが何かを言っているようにしか思えない。 「そういえば、さっき、燎と何を話していたの?」  亜衣の表情と話題が、急に変わった。  燎は男性風呂の脱衣所で、警視庁の沖野口と話していた。  篠原と宇谷もいる。 「岸谷セシカが折田伊那子かどうか、これでハッキリしますか?」  沖野口は硬い表情のまま答えた。
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