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「女性浴場に婦人警官を三人張り込ませています。彼女らが岸谷セシカのひざ裏のケロイドを確認できれば、署に任意同行を求められるでしょう。そしてそのケロイドと、樽橋マキヤが殺された時、ラブホテルで一緒にいた女のケロイド形が一致すれば、逮捕状がとれます。今は婦人警官からの報告を待つしかない」
四人はひたすら待った。
そもそもこのようになった理由は、燎が病院へ呼び戻された時まで遡る。
燎が亜衣の手紙を引き出しにしまったところで、宇谷が、「伊久見先生。夜分に呼び出してスミマセン」と大きなケースを両手で持ってやってきた。
「構わないよ。例のものが届いたんだろ?」
「はい。伊久見先生が届いたらいつでも呼び出して欲しいとおっしゃっていたものが届きました」
宇谷はケースを開けて、そこに収まった真っ白い脳を見せた。
「これ、いつ亡くなったんだ?」
「2日前です。殺人容疑で逮捕された杉内鷹也という男の脳です。一旦監察医が解剖した後、詳しく調べて欲しいと送ってきたものです」
「杉内鷹也…。杉内…。杉内兼子…。もしかして、杉内兼子と母子か?」
「そうです! 送られてきた資料によると、母親は杉内兼子となっています!」
杉内兼子は伊比村出身だった。
燎は杉内兼子の脳も検査している。
杉内兼子はある日突然、錯乱した末に亡くなった。
その死因が分からないと、警視庁の監察医から再検査を頼まれて脳みその一部を託されていた。
突然狂ったように奇声を発しながら突然亡くなる症例は、全国で発生していた。
・症例1 若い男。
アパートの一室で若い男が狂乱の末、亡くなった。
死体を検視した監察医が脳に異常を見つける。
白く変色していて、しかも溶けていた。
それで文化人類医科大学病院に標本を送ってきた。
・症例2 中年の女性。
数日間頭が痛いと寝床にふせっていたが、突然奇声を発しながら暴れ出し、そのまま倒れて亡くなった。
家族の希望により病理解剖。
やはり脳の一部が白く変色、溶けており、これも文化人類医科大学病院に送られてきた。
そして杉内兼子だ。
それぞれの検査で、三例全てからY字型で半分ねじれたウィルスが出た。
三人の出自を調べると、全員伊比村に関係した人間だったため、燎はこのウィルスに【IBウィルス】と名付けた。
「これも同じウィルスの可能性が高そうだな」
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