猿を食す

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 燎は慎重に杉内の脳の一部をカプセル型の検査装置にいれ、期待しながら電子顕微鏡を覗いた。  そこにはY字型の半分ねじれたウィルスが映っていた。 「思った通りだ。杉内もIBウィルスで死んでいる。自分の母親と同じように」 「母子感染ですか?」 「そのようだな」  燎は電子顕微鏡から離れた。 「取調室で警察が乱暴したから死んだんじゃないかとマスコミが騒いでいますが、違うんですね」 「ああ。その時取り調べに当たった刑事は不運だったな。何もしなくても、これは死ぬね」 「じゃあ、早く世間に発表しなくては」 「その前に警察と話をしよう」  燎は警察に電話を掛けた。  そして会うことになった刑事が沖野口という、悠木モナが折田伊那子に襲われた時に捜査に来た刑事だった。 「あれ、また沖野口さんなんですね?」 「私は杉内鷹也の事件と同じ手口で殺された事件は全て担当しています」  沖野口は燎に両方担当している経緯を説明した。 「時期はずれていますが、東京で二人の女性と一人の男性が、いずれも頭蓋骨をくり抜かれて殺されました。この犯人が今回の脳みその持ち主の杉内鷹也です。しかし事件は奴が死んで終わりではなかった。杉内とは別の人物が、今度はラブホテルで樽橋マキヤという若い男を殺しました。そしてこの男も頭蓋骨をくり抜かれていたのです。前にも説明した通り、この時の犯人の着衣が悠木モナさんのものだった」 「なるほど」  燎は一通り話を聞くと、「では私からも説明していいですか?」と言った。 「死因が分かったんですか?」 「はい。でもその前に知ってほしいことがあります。私はこれらの事件は、ある集団が関係しており、その枝葉末節な出来事に過ぎないと読んでいます。他にも大勢の同じ因子を持った人間がいると思っています。それも一人、二人ではない」  沖野口と篠原は燎の言葉に震撼した。 「といいますと、こいつらのような人間が他にも大勢いると?」 「そうです」  燎は伊比村について説明を始めた。 「杉内鷹也、そして発狂しながら死んだ人たちには共通点があります。伊比村です。杉内の母は伊比村出身。悠木モナを襲った折田伊那子は伊比村から来ました。これは悠木モナが伊比村で彼女を見たと証言していますから確実です。前に私は伊比村へ行き、そこでは人間を殺して脳みそを食べる習慣があることを知りました」 「人間の脳みそを食べる村!?」
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