起こり

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起こり

   魂の奥底より、更に根っこ……根源(こんげん)より身震いするほどの咆哮(ほうこう)が天地を(おお)い尽くす。  咆哮(ほうこう)の元には中天(ちゅうてん)を覆うが如く、そびえ立ちしモノ――  それは見るもの全てが恐怖し(おのの)く鬼の顔を持ち――  毒々(どくどく)しく(あや)しくも見事に濡羽(ぬれば)色と黄金(こがね)色が互い違いに入った胴体、触れたものを刺し貫く、(とが)った八本の脚……脚を踏み鳴らしながら巨体を震わす化け物……名を『土蜘蛛』という。  土蜘蛛(つちぐも)の周りには、(おびただ)しい数の屍が無造作に転がる。ある者は細切れに只の肉片となり、ある者は頭手足が無い達磨(だるま)となり転がり、ある者は胴鎧に穴が開き風通しが良くなっていた。  芳醇(ほうじゅん)な血と死の香りが漂う地獄の釜底(かまぞこ)において、死の使者である土蜘蛛(つちぐも)を相手取り、(あらが)うのを止めない武士(もののふ)達。  彼らの具足(ぐそく)は砕け、汗のように血を流しながらも刀を振るう、弓を射る手は止まらない。  攻防の最中に一人の大将らしき武士(もののふ)が刀を天へと掲げる。     
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