少年よ、現実は斯くも非情なり

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 遥か千年前、この世が自分の為にあるようなものだと詠んだ藤原道長の気持ちはこんなものだったのだろうか。  ただ、時代背景もあるし彼も様々な苦労をしたらしいからこんな歌を詠みたくなる気持ちも分からなくはないが、俺ならばこんなにも傲慢な歌は詠まない。  出る杭は打たれるのが常であって、最近は特に、不用意な一言がきっかけで長年苦労して築き上げた地位から失脚させられる人物の話題が絶えない。まして情報化社会。ふとした会話や写真でも悪気無く投稿してみれば炎上したなんてことはザラで、今時珍しくないのだ。  だから俺はこの先何があろうと【知的で爽やかなスポーツ好青年】の仮面を外すつもりはないし、それが最善だと確信している。 就職すれば【社内一カッコイイ若手社員】になるだろうし、結婚すれば【周りが羨むイケメンパパ】になるだろうし、年を取れば【ダンディで素敵なおじ様】になるだろう。  誰も彼も上っ面だけで、内面を必要とはしていないのだから。卵の殻のように外側を覆って隠してしまえば、誰もその内側を窺い知ることはできない。  すべてが順風満帆。  何も心配することはないと――だから、もしかしたら少し油断していたのかもしれない。
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