少年よ、現実は斯くも非情なり

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「先輩、別れましょう。」  人は相手との会話をある程度予測しているものだ。  だからこそ話したい相手や苦手な相手が生まれるわけで、初対面でも上手な会話を熟せる人間というのはこの予測スキルが高い事に因るのだろう。  ちなみに面接などであれば緊張する場面でどこまで冷静を保てるかや正しい自己評価が出来ているかといった部分もその他必要になってくるが、そういった特殊な場面は今は置いておく。なんせ今現在相手にしているのは俺の彼女なわけで、まぁもし今が面接だったなら適度な緊張を保っているだろうから逆にうまく切り返せたかもしれないが、すべてが順調だと思っていた矢先、付き合い始めて一年と経たない彼女と久しぶりに下校を共にしている最中、更には世の恋人たちが愛を確かめ合うバレンタインデーにばっさりフラれてしまうなど全く予測していなかった為に咄嗟の反応が遅れた。 「先輩?聞いていますか?」 「…へ?あぁ、うん、…いや、うん?空耳は聞こえたかな?ごめんけど、もっかい言ってもらっていい?」 「分かりました。先輩、私たち別れましょう。」  空耳ではなかったらしい。  スーパーの特売で欲しいものがたくさんあるから二手に別れて買いたいので手伝ってください、なんて主婦じみた意味合いかとも思ったが、それも違うらしい。  はっきりと聞こえるように配慮してなのか、さっきよりも声を気持ち大きくした律儀な彼女の意志の強い瞳から目を逸らせなかった。
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