少年よ、現実は斯くも非情なり

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 彼女…早乙女希美と付き合い始めたのは去年の5月の事だ。  以前から1学年下に可愛い女子がいるという噂は聞いていたが、2年生に進級してからずっと部活のレギュラー争いだけに集中していた為、実際にその姿を目にしたのはその半年前、選手権が始まる少し前の事だった。 …―― 「俺、早乙女さんが好きなんだ。」  それはなんてことない告白の現場だった。  特筆すべきことといえば、ベタに体育館裏へと呼びだしたらしい男は俺と同じポジションの先輩で、このあとレギュラー選抜のチーム戦で俺と対決する相手だということだろうか。 「(最悪なタイミング…)」  部活が始まるまでに時間があるからと思ったが、体育の授業で置き忘れたシューズなんか放っておけばよかった。  まだ俺を見つけてはいないようだが、どうせ体育館裏で告白するならもっと見つかりにくいところで告白してほしい。おかげで壁際にぽつねんと佇むシューズを取ろうにも、告白現場近くの足元の小さな窓が開いているせいで近づけない。  校内は共有スペースなのでこちらが考慮する必要など全く無いのかもしれないが、先輩とはこのあと顔を合わせるのだ。  選手権は先輩たち3年にとっては最後の試合だし、続く告白の内容は「レギュラーを取るから今からの試合を見に来てほしい」といったもので、あと数十分もすれば始まるチーム戦に向けて自身に発破をかけるつもりで告白しているのだろう。  もしこの告白を俺が聞いているとバレれば、手加減をしなければ恨まれそうな気がする。尤も先輩はそういったことを望む人ではないから、これは俺個人の問題だ。
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