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迂闊にも俺は寝てしまった。
氷はまだ溶けていない。
まだ来ねーのか。あの女は。
俺をどれだけ待たせたら気がすむんだ。
また時計の音が部屋に響く。
カチッカチッカチッカチッ……。
ダダダダダダダダダ………。
なんだこの音は。
もしかして、もしかして、もしかして。
「ゆうた、ごめんっ。仕事長引いた!帰ろっ!」
何が仕事長引いた、だ。俺はずっと待ってたんだぞ。
「ままぁ、うわぁぁーん。」
ともこ先生がいい子に待ってましたよ、と声をかける。だが泣いちまった俺はいい子なんかじゃない。
そういえばあの氷…。
慌てて思い出してコップを見ると小さな氷が残っていた。その氷を口に入れてガリガリ噛みながら保育園の先生たちにバイバイの挨拶をした。
そういや今日隣の席だったダチが言ってたグッズって仮面ライダーのあのベルトかな。俺もお袋にねだってみよう。待ち合わせの時間、いや、お迎えの時間に遅れたお袋は俺の願いを断れないはずだ。
第1章[氷が溶けるまで待つ]おわり。
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