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コーヒーの香りがして、目を開くと隣に彼女はいなくて、僕は毛布を抱きしめていた。
彼女は着替え終わって、メイクをしながらコーヒーを飲んでいる。
音のないテレビ画面が動いている。
彼女が僕に気がついて、振り向いた。
「あ、おそよう。」
チークを塗っていたところだった。
半分くらい完成した顔。
「おはよう、どこかいくの?」
僕は起き上がる事なく目をこすりながら聞いた。
彼女はまた、鏡と向き合い、メイクを続ける。
「うん、やっぱり前髪だけ切りに行こうとおもって。」
「そか。」
ロックバンドのポスターが貼られた壁側の、
数冊しか入っていない本棚。
その本棚の上にある写真立ての中で僕と彼女が笑っている。
銀色の縁が光を反射しているのを見て僕は思い出し、隙間を閉ざすようにカーテンを引っ張り、光を遮断した。
彼女がメイク道具をポーチにしまいながら立ち上がる。
コーヒーのコップは、机に置いたまま。
僕はまだ眠くて、ベッドから起き上がれない。
テーブルの上に置き去りにされたコップと、ベッド上に置き去りにされた僕はきっと同じ心境。
毛布を被った。
彼女はベッドのそばにあった小さなカバンを持ち上げた。
ふわりと漂う香水の香りは、眠たい僕の鼻をツンと刺激する。
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