秘宝

3/4
前へ
/4ページ
次へ
 おおよそ三十分後、ショウは石板の上に一人で座り込んでいた。上半身は下着だけの姿だ。傍らにはオパールが置いてある。  ショウが重りになり、リンダがショウの上着を持って通路を進んだのだった。ダンジョンを二十分ほど戻ったところに、侵入者に向けて鉄球が打ち出される仕掛けのある場所がある。そこで鉄球を集め、ショウの上着で包んで持ち帰ってくる。それを何度か繰り返して人間一人分の重さを揃えて石板の上に載せて重りにするというのが、ショウの考えた解決方法だった。  こうなると、ショウにはリンダを信じて待つことしかできなかった。目の前に横たわる奈落をぼんやりと眺める。横断をかたくなに拒むそれが人の心に巣くう闇そのもののように思えてきた。  迷宮王のダンジョンの建設には、何百人もの職人、大工、工夫が動員された。王自身が設計を行い、建設に携わる人間の担当部分は細分化されたため、王以外にダンジョンの構造を理解するものはいなかった。場所によっては王自身が製作を行ったと言われる。ショウは突破して来たダンジョンの複雑な構造と巧みに仕組まれた罠を思い返した。それらは来訪者を拒絶する断固たる意思を感じさせるものだった。  ショウ達が今取っている方法は実は別の展開もありえるものだった。通路を渡ったリンダにはそのまま外へ出て行って、ショウが力尽きるのを待つという選択もありうる。ショウが力尽きてから戻ってきて、亡き骸を石板の上に置いてオパールを持ち去るのだ。まあ、ショウがオパールを奈落に投げ捨ててなければ……ではあるが。  ショウはふと思った。この仕掛けは人間が信頼あるいは何らかの打算で互いに協力できるかどうかを見極めようとして迷宮王が作ったものではないだろうか。その答えはじきに出る。正確な時間はわからないがリンダが出かけてから既に六十分近くたったような気がする。片道二十分としてもう帰って来てもいい時間だ。  足元に置いたランプを見る。思ったより油の残量が少ないようだ。ランプの炎がゆらりと揺れた。 そして……、
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加