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秘宝
岩山をくり抜いて作られたダンジョンの最深部、冒険者ショウとリンダの二人はいくつもの難関を乗り越え、遂に迷宮王ヴォクトルの残した秘宝の前に立った。
滑滑らかに整えられた岩肌の中、胸の高さほどの位置で岩壁がえぐられ、祭壇のような窪みが作られていた。そこに置かれていたのは赤ん坊の頭ほどの大きさの卵型のオパールただひとつ。二人の持つランプの光を受けて乳白色の煌めきを怪しく揺らめかせていた。
ヴォクトルは先々代の王であった。先王崩御後の王位をめぐる抗争の中、側女の子として王位継承権の末端に位置していた彼は、第二王子の先兵となって権謀術策を駆使して他の継承権者たちを打倒、追放し、遂には第一王子をも敗死させた後、第二王子を謀殺して王位を簒奪した。
王となったヴォクトルは国内の敵対勢力を駆逐した後、ダンジョン構築に熱中する。石造りの城塞を改造、あるいは岩山をくり抜いて建造し、十近くのダンジョンを作った。そのうちの多くは最深部に財宝を隠したうえで挑戦者に開放し、財宝にたどり着いた者にはそれを与えるとした。
人々はヴォクトルの行動を、外敵に攻め込まれた時の逃げ込み場所作り、あるいは対暗殺者トラップの研究でないかと噂し、彼を迷宮王と呼んだ。彼の死後もいくつかのダンジョンは攻略されないまま残り、冒険者たちの挑戦が続けられている。
この岩山は残るダンジョンの中でも最大級のものだ。他の挑戦者たちと同様、ショウとリンダはそれぞれが準備を整えてダンジョンに挑んだ。多くの挑戦者たちが途中で脱落したり行き詰ったりする中、ダンジョン深部に進むことに成功したのだが、同じ場所で立ち往生した。一人では持ち上げられない重さの落とし戸という単純だが効果的な難関を突破するに際し、ダンジョン突破まで協力することを約束してここまで来たのだ。
煌めきを見つめる二人の冒険者の脳裏をこれまでの多くの試練の情景が駆け巡った。炎の壁、打ち出される無数の鉄球、奈落にかかる細い道、身一つがようやくくぐれる洞穴などなどだった。長い冒険もようやく終わる。二人は目配せを交わし、ショウが一歩前に踏み出した。ランプを脇に置いてオパールに手をかける。リンダはランプを前に差し出して、オパールとその周りを照らした。
まだ、罠が仕掛けられているかもしれない。二人は慎重にオパールの周りを調べたが、不審なものは見つけられなかった。ショウがゆっくりとオパールを持ち上げた時、
ザザザザザザッ
何かがこすれるような音が聞こえ始めた。音はオパールの置いてあったあたりから出ていた。目を凝らすと岩棚に指の太さほどの穴が開いていて、砂が穴の奥に流れ落ちていっていた。慌てて止めようとするが、砂は指先をすり抜けていく。あっという間に砂はなくなり、黒い穴がぽっかり開いた状態になった。急いで岩肌に耳を当てると、ザザザッという音が遠くへ移動していくのが聞こえた。ショウは顔をしかめる。
「まずいな」
ショウは体を起こして、リンダに向き直った。
「何かの仕掛けが起動した」
「そうみたいね」
リンダは口をへの字に曲げる。
「せっかく財宝を見つけたのに……、まあ、やっちゃったものは仕方ないわね。どんな仕掛けだと思う?」
「わからないが、音は遠くに離れて行った。戻り路のどこかで作動しているんだろう。道が塞がれているのかも」
「まったく……、でも、ここにいてもしょうがないわ。行ってみましょ」
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