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「こんなに障害ばかりで、敵ばかりで、諦めようって思わないの? 生徒会にまで助けを求めてるけど、確定している恋なんてないんだ。叶わないかもしれない。苦労しても手に入らないかもしれない。今日のこれは、全て徒労に終わるかもしれない。それでも、行きたい?」  我ながら酷いことを言っていることは理解している。  こういうところがきっと、俺が凡人である理由でもあるのだ。努力のできない理由でもある。理屈を取り繕い、欠点ばかりを洗い出し、徒労を嫌う。成果だけを欲し、道中をないがしろにする。  俺の問いに対して、彼女は目を瞠った。だがすぐに、まるで可笑しな冗談でも聞いたようにくすくすと小さく笑った。 「恋って、そういうものじゃないですか?」  至極簡単な答え。向けられた瞳は、キラキラと輝いていた。表情は、どこまでも晴れやかだった。 「恋って、秘境に隠された宝物のようなものだと思うんです。あるとわかれば、どうしても手に入れたくて、どんなことをしても手に入れたいもの。諦めるなんて一ミリも出てこないくらい、心が求めるんです。だから、徒労に終わってもいい。傷ついてもいい。本当に欲しいものは、タダでは手に入らないから」  恋をしている人は、魅力的になるとよく言われる。  なるほど、確かにそうだ。一生懸命恋をしている人間は、木漏れ日のように煌びやかで、嵐の中で咲く花のように強い。それが今、目の前の彼女を見るとはっきりわかる。     
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