11/12
前へ
/16ページ
次へ
 俺は努力のできない人間だ。努力を嫌う人間だ。だけどその分、努力をする人間は、大好きだ。 「逃げる口実は、できないな……」  俺は、彼女に拡声器を手渡した。 「これは?」  逃げる理由はない。だけど、このまま彼女のために犠牲になる勇気もない。 「この拡声器は相手に言うことを聞かせることのできるものなんだ。キミが本当に屋上に行きたいのなら、俺を犠牲にしていけ。今の俺に犠牲になるほどの勇気はない。だから、ただ一言俺に言ってくれ。私のために犠牲になれと」 「……。わかりました」 「さっきの発言は謝るよ。――頑張れ」  彼女の声が、拡声器を通して鼓膜を揺らし、脳に直接響く。その瞬間、胸に正義感のようなものが溢れていた。彼女のために、俺が行かなければいけない。  恐怖感は消え、義務感が生まれていた。足の震えはなく、身体はやけに軽かった。  一本の電話をかけた後、空き教室を一人で出て男たちの前まで歩いていく。 「おい、俺たちの姫様をどこにやった」 「教えてほしかったら、無理矢理口を開かせたらどうだ? ちなみにここには来ないぞ。告白の方法を変えたらしい。いや、恋する乙女は強いな。敵が多くなると思いきった行動にも出る」 「どういうことだ?」     
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加