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俺は努力のできない人間だ。努力を嫌う人間だ。だけどその分、努力をする人間は、大好きだ。
「逃げる口実は、できないな……」
俺は、彼女に拡声器を手渡した。
「これは?」
逃げる理由はない。だけど、このまま彼女のために犠牲になる勇気もない。
「この拡声器は相手に言うことを聞かせることのできるものなんだ。キミが本当に屋上に行きたいのなら、俺を犠牲にしていけ。今の俺に犠牲になるほどの勇気はない。だから、ただ一言俺に言ってくれ。私のために犠牲になれと」
「……。わかりました」
「さっきの発言は謝るよ。――頑張れ」
彼女の声が、拡声器を通して鼓膜を揺らし、脳に直接響く。その瞬間、胸に正義感のようなものが溢れていた。彼女のために、俺が行かなければいけない。
恐怖感は消え、義務感が生まれていた。足の震えはなく、身体はやけに軽かった。
一本の電話をかけた後、空き教室を一人で出て男たちの前まで歩いていく。
「おい、俺たちの姫様をどこにやった」
「教えてほしかったら、無理矢理口を開かせたらどうだ? ちなみにここには来ないぞ。告白の方法を変えたらしい。いや、恋する乙女は強いな。敵が多くなると思いきった行動にも出る」
「どういうことだ?」
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