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「そんな思わせぶりなこと言って、俺への仕返しでしょ?。有名な研究所からのスカウトを受けない彩江を、俺から引き離すための。彩江がそういう所へ行けば、学校の知名度も上がりますからね。でも、無駄ですよ。彩江はそういうの嫌いですし、俺はこれからもあなたのお願いを素直に聞いて、彩江の居心地のいい環境を作っていきますから。それじゃあ、帰りますので」  これ以上会話を続ければ、彼女が本当に俺に惚れていると思わされてしまう気がしたので、足早に保健室を後にした。  利用はされてやる。だけど、思い通りになんてなってやらない。  さて、どうやって彩江を説得したものか。 「チョコでも渡すか……」  今日は、バレンタインデーなのだから。  ◇ 「全く、本当に望むものほど、思い通りにはならないものだな。(しのぶ)、いるんだろ?」  叶が、誰もいなくなった保健室で言葉を漏らすと、いつからそこにいたのか一人の女子生徒が側に立っていた。彼女は、じっと叶のことを見つめながら言葉を待つ。 「ファンクラブの件、仕上げを頼むよ。彼が体まで張ってくれたんだ。絶対失敗しないようにね」 「御意」  次の瞬間には、彼女の姿は消えていた。  叶は保健室の窓から、走っている寄の姿を捉える。その背中に向かって微笑みながら、そっと呟いた。 「さて、次はどんな意地悪をしようかな」  その独白は、群青色に染まった空へと溶けていった。
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