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…そんなことを考えるんだから、わたしは昔、そういう所にいたんだろうか?
……分からない。
自分がどこにいたのかも、誰なのかも。
デジャブは感じるのに、何故何も思い出せない?
ここには一階にお風呂場があって、個室でおフロが入れる。
ちゃんと浴槽もあって、シャワーも付いている。
鏡も付いていて、シャンプー、リンス、ボディーソープもある。
…やっぱりホテルの風呂場に似ているな。
そう思いながら、わたしは体を洗い始めた。
この、無性体の体を。
わたしは白髪で、アゴの辺りまで髪が伸びていた。
そして黒い切れ長の眼に、真っ白な肌。
ところがこの体は、男性として、女性としての性別を表さない。
…だから捨てられたんだろうか?
この寒空の下に、あんな池の近くで。
記憶を取り戻す為に、病院の敷地内を歩く。
しかし池には近付かないようにと、医者から言われた。
あそこでうっかり落ちる人もいるからだと言う。
でもわたしは毎日通っていた。
何せ自分がいた場所だ。
何か思い出せないものかと、行って見る。
冷たい水面は、冷たい風にふかれて揺れている。
池の中を覗き込んで見ても、青さがどこまでも続いているだけで、ハッキリとした底は見えなかった。
水の中に手を入れようとした。
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