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二杯目のシチューも平らげ、大輔がぱんぱんに膨れた腹部を撫でながら満足そうに息を吐く。
久美子はお盆ごと片付けて、キッチンの引き出しから離婚届を取り出した。
まだテーブルで満腹感に浸っている大輔の前に離婚届を黙って差し出す。
大輔が離婚届と久美子を戸惑いを露わにしながら交互に見る。
「…どうしたんだ…。なんでこんな…。」
大輔の言葉に久美子は黙って首を降った。
久美子は大輔が何も知らないと思っている事が、気づかれていないと思っている事が悲しかった。
大輔の問いに悲しげに眉を落とす久美子は震える唇から静かに声を出す。
「…見ちゃったの…貴方が若い女の子と腕を組んで歩いてるのを…。」
その光景を思い出せば僅かに目頭が熱くなり、じわりっと心の中に黒いものが溢れてきそうになる。
大輔を責め立て泣きわめくような事はしたくなかった。
大輔に対する愛情がそうさせるのか、自身のプライドによるものなのかは分からないが、久美子は出来るだけ冷静に言葉を紡ぐ。
久美子の言葉に大輔はじっと離婚届を見つめていた。
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