第1章 泥棒狐

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「今回は俺が先に入ってもいいかな?」 セレはピアリにきいた。 「もちろんよ。人生初(はつ)の温泉でしょ。どうぞ楽しんで。」 ピアリは快く答えてくれた。 「やった…!」 (はや)る気持ちを抑えながら浴場に向かった。 ナーガとルルグも一緒だった。 ラタンで編まれた簡単な扉を開けて中に入ると… 「岩風呂だ!」 天然の源泉が岩壁から流れ出ていた。 セレとナーガは腰周りに大判のタオルを巻いて湯に浸かった。王侯貴族は入浴時も全裸にはならない。 ルルグだけは『まんま』だった。 「あー…これが温泉か…」 セレが今までに入ったどんな湯とも違う。 …何だろう、身体の芯までじんわりと染みるこの心地良さは… 岩にもたれかかり、気持ち良さそうに目を閉じて動かなくなった。 ナーガはセレの頭の中を(のぞ)いたが、ほぐれた快感で満ちているだけで、言葉らしきものは見当たらない。ほとんど意識を失っている様な状態だった。 「…セレ様?」 まさかと思って見ていると、カクン、とセレの首が前に倒れて顔が湯に浸かった。 「あっ…!」 『意識を失っている様な』ではなく『完全に意識を失っている』だ。 「セレ様! 」
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