第1章 泥棒狐

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「おいっ、この格好のまま?!」 恥ずかしがる暇も無く、セレは半裸姿で廊下を走らされた。 客の少ない宿だったのが良かった。誰にも会わずに部屋に着けた。 「見て、セレ。」 ピアリはセレ達の部屋のドアを開けた。 「…荒らされた様子は無いな…」 荷物は最初に置いたままの状態だった。ヒターラだけが無くなっている。 ヒターラとはギターとリュートの中間のような楽器だ。 「ヒターラだけを(ねら)ってたみたいだな。何者の仕業だろう?」 「金色の狐みたいな動物だったわ。」 数分前の事。窓が開いた音を聞いたピアリが様子を見に来て、一瞬だが犯人の姿を見たのだ。 「それって多分、外で見た魔獣です。」 ナーガがセレの衣服を持って来た。 「先ほど微かですが魔法を感じました。窓の一部を魔法で壊したんでしょう。」 「…錠前が綺麗に切断されている。風の魔法を使う奴だな。」 服を着ながら、セレは錠前を確かめた。 「セレ、そんなにノンビリしていて良いの? アスヴィル陛下から頂いた大切なヒターラよ。」 全く慌てる様子の無いセレに、ピアリは少し苛立った。 「あのヒターラには魔法をかけてあるんだ。そう簡単には盗ませないよ。」
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