第一章 彼方の国

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「……一般人としてこのマーズ基地に住み着くのは難しいかもね。この基地で暮らしてるのは軍人とその家族がほとんどだから」 キョウコは卓上のタブレット端末を操作して拓に見せた。 「この辺が軍人の居住区。いまアタシたちがいるのがこの辺。そんでもって一般人が住んでるのはこの辺だよ。ここに住んでる一般人は少ないんだ。もともとイデアの南のほうに住んでた草原の人たちだからね。特別扱いなの」 拓は端末の画面をよく見たが、理解できたのは基地の巨大さだけだった。 「……たとえばなんだけど。アタシみたいな女性士官と結婚すれば士官の家族として基地に住めるはずだよ。たとえばの話ね」 顔を真っ赤にしながらキョウコは早口でしゃべり、取り消すように右手を振った。そして卓上の飲み物を一気に飲んだ。 「結婚? 俺が? まだ十代なのに? しかも知らない国で……」 拓は呆然とし、まだ痛む頭を抱えた。
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