意地っぱりな唇

16/19
273人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「隆司、MS3を押さえていたのは私なの。 あなたに頼まれていた分譲十軒分よ。佐川さんに 譲る?その代わりに今、ワンランク上のMG3を 押さえたわ。予定より価格が上がってしまうけど」 一旦通話を切った隆司に、今の結果を伝える。 私にできるのはここまでだ。後は隆司の判断次第。 「そうか、MS3は文香だったか。俺の方は 工務店となんとか話をつける。それでいこう」 「OK、じゃあ正式に発注掛けるわよ」 「ああ、頼む」 このやり取りを聞いていた皆が、一斉に 安堵の息を吐いた。 その中で一人、呆然としている佐川さんに 私は歩み寄った。 「御手洗さんに感謝するのね。もうこんな幸運は 無いわよ」 唇を噛む佐川さんに告げて、私はまた受話器を 取り上げた。 「あの、高橋さん」 「何?」 「ありがとう、ございました」 佐川さんが小さな声で感謝を示す。 そんな彼女に微笑んで、私は倉庫の短縮 ボタンを押した。 「ああ疲れた。今日は早く帰れる はずだったのに」 「今日は文香のファインプレーだったな」 全ての騒動が一段落して、私と隆司は休憩室の ベンチで一息入れていた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!