意地っぱりな唇

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長かった正月休みも遠い日の出来事のように 感じられるようになり、休み明けのどこか のんびりした空気も去って、部署内にほどよい 緊張感が戻ってきた一月の中旬。 ようやく仕事がはかどるようになった。 なんて、思っていたというのに─── 月末には部署内に、今度は浮ついた 空気が漂うようになった気がした。 けれども単に「気がした」程度だったので、 深く考えることなく月末の週を過ごして、 二月も二週目に入った今日、その理由を 知ることになったのだ。 *** 「野間ちゃん、この席良い?」 「あ、文香さん、お疲れ様です。これから お昼ですか?ずいぶん遅いんですね」 「そうなのよ。電話が長引いちゃって」 そう言って、後輩に苦笑を向ける。 昼休み前に在庫のことで担当者に掛けた 電話が思いのほか長引いて、昼休みまで ずれ込んでしまったのだ。 でもそのおかげで、いつもは混雑している 社員食堂もずいぶん人が減っていて、普段は 空席を見つけるのに苦労するのに、今日は すぐに席を見つけることができた。 それも、仲の良い後輩の隣に。 だから遅くなったことも、それほど悪くは なかったと思える。
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